トランプはなぜ「ツイッター騒動」を起こしたか ソーシャルメディアに欠ける「権力の自覚」

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これが、ソーシャルメディアが社会を分断するメカニズムの説明である。ソーシャルメディアによって、我々はアルゴリズムが機能した後の情報を得る。その結果、ユーザーの好みに合わせた情報が自動的に選別され、閉じた空間ができあがってしまう。

ユーザーにしてみれば、確かに便利で気持ちがいいだろう。同じ考え、意見の持ち主が自動的に集まる。共鳴し合い、自分の意見や考え方が補強される。こうした現象は「エコーチェンバー」と呼ばれている。その結果、異なる意見や事実に触れる機会が奪われてしまい、極論が横行し、社会が分断されていく。ソーシャルメディアのユーザーが億の単位で増え続け、社会への影響力を増した結果がこうした現象を生み出しているのだ。

岐路に立つソーシャルメディア

問題は、事業者の側に肥大化した自らの社会的存在についての自覚や責任感、倫理観があるかどうかだ。

ツイッター社はトランプ氏のツイートの内容に問題ありとして、非表示などの対応をとった。ところが、ツイッターよりはるかにユーザーの多いフェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEOは、「何が真実で、何がそうでないかをフェイスブックが判断するのは危険なことだ」と、ツイッター社と正反対の姿勢を見せている。つまり、自分たちは単なるプラットフォーマーであり、一般の市民だろうが為政者だろうが、発信したものはそのまま載せるという姿勢なのである。

事業者側にとって、ユーザーの発信内容に問題があろうが、それによって何らかのトラブルが生じようが、法的責任を免除されている今の状況はありがたいものだろう。今回のツイッター社の対応のように、非表示などの措置をとれば権力者の逆鱗に触れ、利益を得る機会を失いかねない。フェイスブックの姿勢からは、余計なリスクは避けるという企業論理が垣間見えてくる。

しかし、ソーシャルメディアはもはや単なるプラットフォームを超えた巨大なメディアである。その発信は現実の政治や国際関係、選挙などを左右する。にもかかわらず、今まで通り政府の庇護のもとで利潤追求に専念すれば、時の権力者の都合のいい存在であり続けなければならない。

その結果、場合によっては、かつて民主主義の期待の星であったソーシャルメディアが民主主義の破壊者になってしまう可能性がある。そうした自覚を持ち、社会的責任をどう果たすのか。今回の騒動はソーシャルメディアが重大な岐路に立っていることを明らかにしている。

薬師寺 克行 東洋大学教授

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やくしじ かつゆき / Katsuyuki Yakushiji

1979年東京大学卒、朝日新聞社に入社。政治部で首相官邸や外務省などを担当。論説委員、月刊『論座』編集長、政治部長などを務める。2011年より東洋大学社会学部教授。国際問題研究所客員研究員。専門は現代日本政治、日本外交。主な著書に『現代日本政治史』(有斐閣、2014年)、『激論! ナショナリズムと外交』(講談社、2014年)、『証言 民主党政権』(講談社、2012年)など。

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