フランス「自国語愛」にラジオ局が悲鳴上げる訳 厳しすぎる規制にラジオ局が救済求める

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フランス日刊紙、ル・モンドのフィリップ・メスメール記者は「若者の多くがまず、Youtubeで楽曲に触れ、その後はスポティファイなどのサブスクリプションサービスへ移行する」と若年層の消費行動を説明する。

ラジオ各局がCSAに救済を求めた背景には、コロナ禍による広告収入急減に加え、音楽配信サービスに若い世代の聴取者層を奪われてしまうことへの強い危機感がある。

リーステール文化相は地元ラジオ局のインタビューで、「ストリーミングの音楽配信サービスを提供するプラットフォームにも、フランス語曲を増やすよう強制する方策を検討している」と語った。だが、「同サービスへの規制適用は難しい」(メスメール氏)と見るのが現実的だろう。

音楽プラットフォームに規制を課すべきか

ラジオ各局はCSAに対し、クォータ制で定めたフランス語の楽曲を流す比率の算定対象期間をひと月から1年に拡大することなども要請。「CSAは書面で(クォータを順守できなくても)7月末までは一切のペナルティを課さないことを約束した」とル・モンドは伝えている。

だが、音楽業界の権益を擁護する立場のSNEPも黙ってはいない。「販売上位200の音楽アルバムのうち、音声ストリーミングでは71%、Youtubeなどの動画ストリーミングでは84%がフランス語の楽曲なのに対し、ラジオでは42%にとどまっている」などと報告で指摘。そのうえで、「ストリーミングのプラットフォームにも規制を科すべきというラジオ局の要請には根拠がなく、危険な考え」などと反論している。

現在は「ローテーションの上限」見直しの機運が高まりつつあるが、クォータ制撤廃の議論までには発展しそうにない。当のラジオ局側からも「われわれがフランス語を守るのは重要な役割」(民間ラジオ局社員)との声が聞こえてくる。

「表現の自由」とは一線を画してでもフランス語を守ろうとする同国政府。その姿勢は、恋愛に関する多くの名言を残した17世紀の高名な劇作家を引き合いに出し、「モリエールの言語」などと母国語を誇りにするフランス人らしい。

松崎 泰弘 大正大学 教授

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まつざき やすひろ / Yasuhiro Matsuzaki

フリージャーナリスト。1962年、東京生まれ。日本短波放送(現ラジオNIKKEI)、北海道放送(HBC)を経て2000年、東洋経済新報社へ入社。東洋経済では編集局で金融マーケット、欧州経済(特にフランス)などの取材経験が長く、2013年10月からデジタルメディア局に異動し「会社四季報オンライン」担当。著書に『お金持ち入門』(共著、実業之日本社)。趣味はスポーツ。ラグビーには中学時代から20年にわたって没頭し、大学では体育会ラグビー部に在籍していた。2018年3月に退職し、同年4月より大正大学表現学部教授。

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