お笑いタレントが面白くなくなった理由 もう“金太郎飴芸人”はいらない

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面白くない金太郎飴芸人の大量生産は、吉本の責任?

さて、よく知られたことだが、NSCというお笑い養成所を吉本が抱えており、お笑いプロダクションが抱える“芸人養成所”としては断トツの規模を誇っている。吉本は若手芸人におカネを全然払わないことで有名だが、それでも芸人候補が殺到するのは、そのテレビ局へのディストリビューション・ネットワークおよび業界での政治力の賜物であろう。

これはたとえば投資銀行でも若手時代はゴールドマンサックスよりも下位のセカンドティア、サードティアの銀行のほうが実は給料を弾んでくれることがあるのと似た理由だろうか。つまるところ業界のリーダーであれば、別に会社側が苦労しなくても、タレントが押し寄せるということである。

ただしゴールドマンをはじめ投資銀行では数百、下手したら数千の応募者から数十人が選ばれるので、業界の入り口に立っている時点ですでに適正がかなり絞られているわけだが、吉本の場合は基本、お笑い志望生が40万円などの入学金を払えば、よっぽどの不適格者でないかぎり基本的には吉本の入り口に立てるわけである。結果的に入り口の段階から、まったくお笑いへの適性のない人が、現実離れした自分の適性を踏まえない志望動機で、お笑い業界の入り口に立つのを、吉本は止めてあげる道義的責任がないだろうか。

実際の話、NSCの卒業生の中で、お笑いタレントとして食べていけるのは1%とかそういう確率らしい。お笑いタレントの卵をいったん抱え込んで、その卵にカネを払わせてトレーニングし、選抜して商品になる芸人だけテレビの電波に乗せていくという仕組みは、ビジネスモデルとしてあっぱれである。

しかし笑いの消費者である視聴者にとっては、はなはだ迷惑な話だ。今やお笑い芸人の大半がNSCなどの養成所を通して入ってくるので、その1年間で“教え込まれる”笑いのパターン、お笑いの型にはまってしまい、結果的に金太郎飴のように同じ“お笑いパターン”の芸人が、大量に生産されてしまっているのだ。

笑いはまず才能ありき~勉強してもセンスは磨かれない

グローバルエリートを笑いの師匠として頂く私が断言するが、お笑いのセンスとはそもそも、教えられるものではない。ごく一部の例外はあるかもしれないが、たとえば小学校や中高のときにクラスで面白くなかった人は、その後10年とか20年の月日を超えて再会しても、相変わらず鈍い笑いのセンスで周囲を凍りつかせている。わが家の兄弟姉妹を見ても、うちの長女は笑いのセンスが幼少期から皆無だったが、成人した今も寒い冗談を、いかにも「あんたら、この笑いにまだついてこれてへん」みたいなしたり顔で連発するのだ。

これは数学のセンスが子供の頃なかった人は、その後、大人になっても全然数学音痴なのと同様、また地図を読めず方向感覚のない子供が、将来、同じく地図を読めず方向感覚がゼロのままであるのと同様、笑いのセンスがない人が笑いを学ぶのは至難の業である。

これは吉本にとってはすばらしいビジネスモデルで、本当に光る一部のタレントを探し出すために、その選別とトレーニングの運営費用を、無数の笑いの才能のないお笑い志望者にファイナンスしてもらえるのだから、あっぱれなモデルではないか。

しかしそこに通う人たちは、自分が将来の1%以下のスターのためにおカネを払っている99%の働きアリか、それともその学校で選別されてカネを生み出すスターになれる女王アリか、早期に自分の適性を見定める必要があるだろう。

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