75歳以上の免許返納率上昇も地域差拡大の現実 現行の認知機能検査にはさまざまな課題も

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現在、高齢ドライバーは、免許更新時の年齢に応じて、講習や検査を受ける必要があります。

2009年6月以降、免許更新時の年齢が75歳以上のドライバーに対しては、認知機能検査が義務づけられました。さらに、2017年3月以降、一定の違反行為をした場合に臨時認知機能検査を行い、直近に受けた検査の結果と比較して悪化している場合は臨時高齢者講習を受けることとされました。認知機能検査で「認知症のおそれあり」と判定された場合は、違反状況にかかわらず、医師の診断が必要になります。

認知機能検査に課題も

しかし、現行の認知機能検査に対しては、さまざまな課題が指摘されています。例えば、2018年に死亡事故を起こした75歳以上のドライバーのうち、約半数は直近の認知機能検査で「認知症のおそれあり」または「認知機能低下のおそれあり」と判定されていましたが、残る半数は「認知機能低下のおそれなし」と判定されていました。

また、認知機能検査は何度でも再受検ができるため、「認知症のおそれあり」と判定されても、その一部は、再受検によって判定が変わり、医師の診察対象とならないことから、その実効性が疑問視されることがあります。さらに、一定の違反行為をした場合に臨時認知機能検査を義務づけられますが、高齢ドライバーによる死亡事故例を見ると、8割以上は過去3年以内に違反行為をしていませんでした。

また、加齢にともなって低下するのは認知機能だけでなく、動体視力や体力、筋力等の身体機能も同様であることから、認知機能の低下だけに着目するのではなく、運転技術をチェックする必要があることが指摘されています。

そこで、高齢ドライバーの運転免許更新をさらに厳格化するほか、自動ブレーキや踏み間違い時の加速抑制装置が搭載された安全運転サポート車(サポカー)に限定して運転できる「サポカー限定免許」の創設を盛り込んだ道路交通法改正案が、2020年3月閣議決定され、2022年度にも施行される見込みです。

改正案では、一定の違反歴のある高齢ドライバーに対し、免許更新時に運転技能検査を義務づけることが予定されています。運転技能検査の対象外である高齢ドライバーについても、講習の中で運転技能を評価し、技能不足の場合は免許の返納や安全運転サポート車限定免許への変更を勧めることもあるようです。

現在、運転免許保有者の2割強が65歳以上です。さらに、今後、これまでよりも免許保有率が高く、人口の多い団塊の世代が75歳を迎え始めます。移動のための代替手段が確保できない限り、高齢者の自立した生活を確保するためには、加齢にともなう機能低下を補強するような新しい技術の応用や、運転しやすい道路の整備など、安全に運転を継続できる環境整備も検討していく必要があると思われます。

また、加齢による、認知および身体機能や運動機能の低下は、過去の違反歴や免許更新のタイミングとは関係なく起きうるものです。日ごろから健康状態の悪化や加齢による衰えを把握するようなサポート体制が必要でしょう。

村松 容子 ニッセイ基礎研究所保険研究部 准主任研究員

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むらまつ ようこ / Yoko Muramatsu

死亡・疾病発生リスクについて、統計的にその発生状況を算定すること、および、消費者調査を通じて消費者がどのようにリスクに対応するのかを研究。国が公表している疾病統計以外にレセプトデータ、健診データ、健康に関する消費者の意識調査などを使ってさまざまな視点から分析している。ニッセイ基礎研究所の著者ページはこちら

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