「島耕作」作者が語る団塊世代の定年後のリアル 「弘兼憲史×松本すみ子」定年後について対談

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松本:2013年に高年齢者雇用安定法が改正されて、定年退職した後に再雇用を選ぶ人がほとんどですよね。初めのうちは5年間雇用延長されるのでラッキーだと思うのですが、実際には思っていた働き方や待遇とは全然違って、腐ってしまう人がたくさんいる。正社員の頃と比べて給料は大幅に下がるし、そもそも周りから当てにされないわけです。

弘兼:人手不足だからといって今までの人を残すと、それによって新しい人が入ってこられないという弊害もありますしね。

松本:ええ。人手不足だったら会社もしっかり使えばいいのにと思うんですが、そういうわけでもなく、ただ会社にいさせて給料だけ与えるようなところが多い。雇われるほうも「妖精さん」(再雇用されたもののあまり業務がない「働かない中高年」のこと)なんて冷やかされて。

『定年後も働きたい。』にも書いたんですが、希望すれば誰でも定年後に5年間、そのまま同じ会社で働き続けられるなんて、そんな国がほかにあるだろうか、と。やっぱり、その人の業績とか資質をきちんと見極めて、雇う雇わないを決めていかないと、結局だめにしてしまうだけです。

この仕組みを変えない限りは、誰も幸せになっていないような気がするんですね。雇われるほうも、このことに気がつくべきではないかと。

昔の夢や思い出から逃げられない人

弘兼:確かに、大企業に勤めていた知り合いが定年になって「俺、フリーでやるからちょっと使ってくれよ」と言ってくるから使ってみたら、これが全然使い物にならなかった、という話はよく聞きますね。今まで肩書で勝負してきただけだったと。

松本:私は「東京セカンドキャリア塾」や、各地の自治体の講座でリタイア世代に向けて生き方と働き方のアドバイスをしているんですが、そこでも昔の夢とか思い出から逃れられない人は結構います。

弘兼:過去に固執するかどうかは、男女でも違いが出ますね。定年になったらどんなに偉い人も平地に下りて町内会とかマンションの管理組合に出るようになるんですが、社会的地位が高かった男性ほど大変だと聞きます。なにせ共通の話題がないし、誰も自分の意見を譲りませんから。

ところが女性は男性と違って、社会的地位とか経済力が違う相手とも世間話ができるんですよね。うちのかみさんなんかがごみ出しに行くと、近所のおばさんとずっと話し込んでいて。夫の悪口とか子育てとか、共通の話題がいろいろあるんだと思いますが、僕からすると「いったい何話してるんだ?」と不思議でならない(笑)。

男性は子育てもしなければ妻の悪口も別に言わないから、近所のおっさんが3、4人集まったってまあ話はしないですよ。

松本:団塊世代の女性たちに対しては、弘兼さんはどういうふうに見ていますか。結構高い学歴の人でも働く機会がなくて、ほとんどが専業主婦になった世代です。銀行に入っても25歳ぐらいでみんな辞めて、誰かのお嫁さんになっていった。

弘兼:当時は雇用機会均等法ができる前で、確かに女性の労働条件が悪かったですね。僕がいた松下電器なんて、あんな大企業なのに四大卒の女性を採らなかったですから。採るとしても高卒か短大で。

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