これが「犯罪捜査サスペンス」の金字塔だ アメリカの“今”を映し続けた20年

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実際に起きた事件が題材

さて、前段が長くなったが、本作を全シーズン放送した「スーパー!ドラマTV」(現在は再放送中)は、キャッチコピーに「これを見ずしてアメリカは語れない」と掲げている。最初に見たときは、サスペンスでアメリカを語るとは大きく出すぎでは!? と驚いたが、これもある意味で決して大げさではないのだ。

基本的に地元に根付いた事件を扱っているため、無駄に派手で荒唐無稽な事件などは描かれない。そのどれもが実際に起きた事件を題材にしており、有名な政治家の汚職やマフィアがらみなどの全国区的なものから、地元の人なら知っているというものまで、徹底してリアリズムを追求している。

実際に、マンハッタンや近郊の住人ならば、3話に1話は「あ、これはあの事件だな」と思い当たることがあったとか。事件はマンハッタンという場所柄もあるが、強盗や財産争いから人種問題や宗教がらみ、思想や政治、少年犯罪やヘイトクライム(憎悪犯罪)など多種多様で、判決と量刑まで毎回ずしりと重い。

アメリカの社会問題の変遷をたどれる

そもそも犯罪とは、その時代時代の空気をダイレクトに反映したものである。確かに、シリーズを通して見ていると、本作でアメリカの社会問題の変遷をたどることができることに気づく。

たとえば、20年間にわたって繰り返し登場する犯罪のテーマは、中絶反対派によるテロ行為や、キリスト教ほか信仰をめぐる問題、女性の権利を扱ったもの、自警団、人種差別は黒人、ヒスパニック、アジア系、マフィアはイタリア系からロシア系など。1990年代からアメリカの社会や文化がどのように変化してきたかが読み取れて、なるほどなあと思わされる。とりわけ、特殊な文化を背景とする人種や思想、宗教がらみのテーマは善悪の判断が難しく、見ていてもその境界線にはいつも頭を悩まされる。

一方で、後半の法廷ドラマの部分では、少年犯罪の量刑や死刑制度(シリーズの途中でニューヨーク州は死刑制度を停止。事実上、廃止している)など、日本でも議論となる問題のアメリカにおける変遷が読み取れる。筆者は、特に死刑制度は考えさせられることが多かった。

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