北の脅威を一気に高める新兵器「KN-09」 射程距離は180~200キロ。韓国はお手上げ状態

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しかし、KN-09がミサイルではなくロケット砲だったとしても、韓国にとって大きな脅威であることに変わりはない。ロケット砲はミサイルと比べ、より簡素化・単純化されて製造される分、実戦時の兵器としての信頼性も高くなる。このため、ミサイルより大きな脅威とみる向きもある。

KN-09は、北朝鮮の軍需工業部の下で少なくとも3年以上にわたって開発が進められてきたものだが、ベースとなる技術がどこから由来しているのかはわかっていない。ロシアの300ミリ多連装自走ロケット砲BM-30「スメーチ」や、中国の302ミリ4連装自走ロケット砲WS-1B 、あるいは、シリアの302ミリ地対地ロケット弾M302から派生したとものとみられている。後者2つから派生した場合、KN-09の口径も300ミリではなく302ミリである可能性が残されている。韓国の『朝鮮日報』は、KN-09の開発が2000年代初頭に中国の技術支援で始まったと報じた。

「次元の違う威嚇手段」

韓国の『中央日報』は国策研究機関の関係者の言葉を引用し、「従来の放射砲は首都圏を目標に多量の砲弾を無差別的に落とす武器」と位置付ける一方、「KN-09は短い発射準備時間で遠距離の目標物を正確に打撃できる、次元の違うミサイル級の威嚇手段だ」と報じた。

その言葉通り、韓国にとって、KN-09から一斉発射されるロケット弾を迎撃することはほぼ不可能といっていい。そもそも韓国は、主に中国への配慮と財政面の課題から米国主導のミサイル防衛システム(MD)への参加を見送っている。韓国政府はその代わりに、北朝鮮の核兵器とミサイルを探知、識別し、地上段階で打撃する「キル・チェーン」を構築中だ。地対空誘導弾パトリオット「PAC2」を改良するなどし、敵ミサイルを着弾前に迎撃する韓国型ミサイル防衛(KAMD)システムの構築を目指している。しかし、完成時期は2020年代前半だ。

完成後もKN-09の迎撃は難しい。弾道ミサイルと違い、ターゲットとして定める発射体が小さく、一斉放射の連発で飛んでくるため、迎撃することは難しいとみられる。弾道ミサイルのように大気圏の内外を弾道を描いて飛んでくるミサイルより低高度で飛来してくるため、探知自体が極めて難しい。

また、多くのMRLと同様、KN-09も固体燃料を使っているとみられる。このため、発射準備を極めて短時間で終わらせることができ、発射の兆候を韓国軍や在韓米軍が探知することも難しくなっている。

4月2日にワシントンで開かれた下院軍事委員会公聴会で、在韓米軍のスカパロティ司令官は次のように危機感をあらわにした。

「金正恩体制は危険で、ほとんどあるいは全くの前触れなしで韓国を攻撃できる能力を持っている」

続けて、いざ戦闘が長期化した場合の在韓米軍の後続部隊の準備態勢に懸念を表明した。

北朝鮮が、KN-09という新たな武器を手に入れ、鶏龍台にある韓国軍の司令本部や平沢市にある在韓米軍の主要基地、さらにはソウルに対して、先手必勝で奇襲攻撃を行い大ダメージを与えた場合(つまり、第二次朝鮮戦争が起きた場合)、韓国軍と在韓米軍は北に勝利できるだろうか。そのような不安を私たちに抱かせただけでも、すでに北朝鮮は大きな抑止力を手に入れた、と言えるかもしれない。

高橋 浩祐 米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員

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たかはし こうすけ / Kosuke Takahashi

米外交・安全保障専門オンライン誌『ディプロマット』東京特派員。英国の軍事専門誌『ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー』前特派員。1993年3月慶応義塾大学経済学部卒、2003年12月米国コロンビア大学大学院でジャーナリズム、国際関係公共政策の修士号取得。ハフィントンポスト日本版編集長や日経CNBCコメンテーターなどを歴任。朝日新聞社、ブルームバーグ・ニューズ、 ウォール・ストリート・ジャーナル日本版、ロイター通信で記者や編集者を務めた経験を持つ。

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