だが、すでに本田の中では消化されていたらしい。穏やかな表情で振り返った。
「あれをシンプルに決めていればね。あとヘディングの(惜しい)シュートもあった。このへんが成果として出始めると、状況は一変すると思う。一変するというのは、周りがね。本人としても大きく変わることはないけれど、ゴールが生まれればもうちょっとリラックスしてプレーできるだろうし。ゴールが取れれば、そこは変わってくるでしょうね」
――この2試合(30節のフィオレンティーナ戦と31節のキエーボ戦)は、本田くんのプレーが劇的によくなっているように見えた。現地紙からも好評価だった。本人としては?
「まあひとつの上昇気流に乗り始めているのは間違いない。それをどう続けられるかっていうのは、今後の自分次第です」
上昇気流――。まさに今の本田にふさわしい言葉だろう。ジェノア戦でそれが現実のものであることを、自らのゴールで証明した。本田がブラジルW杯に向けて、満を持してスケールアップしていることは、日本代表にとって計り知れないプラス材料だ。
紆余曲折を経て得たもの
それに加えて、この日の本田の姿勢は、W杯に臨むうえでも示唆に富んでいた。ここでは2つの“心構え”をクローズアップしたい。
ひとつ目は「挽回できない遅れはない」。
本田はセリエAのデビュー戦において、ポストを直撃する惜しいシュートを放っていた。だが、結局ゴールは決められず、そのためにミランは3対4で敗れ、当時、チームを率いていたアレグリ監督は解任されてしまった。
アレグリは本田をトップ下で起用することを明言していた指揮官だ。もしあのシュートが決まっていれば、アレグリが解任されることはなく、本田がこれほど出遅れることはなかったかもしれない。
だが、監督交代という困難を味わったからこそ、プレースタイルが広がり、ボール奪取の力も磨かれたとも言える。紆余曲折を経たからこそ得たものは確実にあった。
挽回できない遅れはない。W杯は短期決戦だが、どんな状況に陥ってもあきらめてはいけない。
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