第一三共が問題のインド子会社を実質売却 買収から5年の空費、巨額損失計上でも引責なし

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2008年6月にランバクシーの買収で第一三共の庄田隆社長とシンCEO(肩書きはいずれも当時)が会見を行った(撮影:玉川陽平)

確かに今だけを切り出せば、いいディールになる。ただ、ランバクシー株が倍以上に評価されたのは、09年3月期に第一三共が行った4000億円弱の減損処理で、簿価が買収時の金額から約5分の1になっているからだ。

08年の買収直後、2工場が対米輸出禁止の措置を受けたことで、ランバクシー株は252ルピーまで下落。買収価格(1株737ルピー)の約3分の1になった。今回の合併が発表された4月7日の株価は444ルピーであり、依然として当時の買収価格とは大きな差がある。

吸収合併に伴う評価額(現時点の計算で2100億円)と保有簿価(約900億円)の差額は損益計算書(PL)上の利益にはならないため、買収後に出した減損損失が穴埋めできるわけでもない。

巨額損失を取り戻す?

4000億円弱もの大きな損失を出せば、結果責任が問われて当然だが、中山社長は「今後利益を出して、株主にお返しするのが責任。この損失はサンとの提携による事業収益で取り戻せると思っている」と述べた。ランバクシーの買収を進めた当時の庄田隆社長(現会長)以下、役員が責任を問われることはないようだ。

第一三共は、吸収合併後にサンとの提携をもくろんでいるが、仮にそれができたとしても事業収益で過去の損失を取り戻すのは容易ではあるまい。会見で、どれくらいの期間で過去の損失を取り戻すつもりなのかを質問してみたが、中山社長は明言を避けた。

よしんば、取り戻せたとしても、この5年間の事業機会と時間の損失は余りに大きい。カネは取り戻せても時間は取り戻せない。もっとも、資金的な損失が経営統合で確定したわけではない。今回の合併に際し、今年1月に禁輸措置を受けたトアンサ工場に関するFDAの召喚状に基いて発生する費用については、合併後であっても第一三共が支払うという合意がなされている。費用の上限は当事者間で決まっているようだが、これは公表されない。

つまり、サンとの吸収合併で合意したものの、今後発生するかもしれない「費用負担=損失」が外からは見えない状況だ。ちなみに、08年の2工場の禁輸事案で米当局に支払った和解金は500億円にのぼり、ここに至るまでに3年を要した。ランバクシーの実質売却後も、第一三共は不確定のリスクを引きずることになる。

筒井 幹雄 東洋経済 記者

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つつい みきお / Mikio Tsutsui

『会社四季報』編集長などを経て、現職は編集委員。

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