特別養護老人ホームの個室化へ舵切った厚労省

入居待ち30万人? 質をどう保証する

東京都中野区に住む佐藤成子さん(62)には90歳になる母親がいる。4年前に認知症と診断され、地方で独り暮らしをしていたのを中野の自宅へと呼び寄せた。症状はしだいに重くなり、今年2月には大腿骨を骨折して入院。常時介護が必要になったことから自宅での介護をあきらめた。

佐藤さんは特別養護老人ホーム(特養)へ入居させることを考えた。特養は、おおむね65歳以上を対象にした、食事・入浴・排泄など常時介護が必要な人向けの施設だ。しかし入居待ちは、人口31万人の中野区だけで1000人以上もいる。

佐藤さんは夫と美容室を経営しているが、介護をきっかけに家庭内不和となり、別居状態が続いている。一人娘はいるが海外に留学している。介護でほかに頼るべき人もおらず疲労が重なり、頭痛や吐き気など体調にも異変を来すようになった。膨大な入居待ちを知った佐藤さんは、窮状を訴えるために、夫との別居の証拠を示す住民票や自身の医師の診断書を携え、中野区内にある七つの特養すべてに週1回足を運んで訴えた。

何度も訪れる佐藤さんの姿を見掛けると、後ずさりする特養の職員もいたという。「大変ですと言ったって、誰も信用してくれない。何度門前払いをされようと必死でした」。

特養への入居を希望する場合、市区町村か、施設に直接申し込む。かつては申し込み順だったが、2003年以降は要介護度の高い人が優先的に入るように制度が変わった。特養入居者の要介護度は、全国平均で3・7(3は中程度の介護度と要するとされ、身の回りのことが自分ではできない状態。これが4、5になるとより重度になる)で、同じ介護保険対象の介護療養型医療施設(介護療養病床)での要介護度4・3より若干低い。だが、新たに入居するには4か5でないと実質的に無理だ。これに介護をする家族や住居の事情なども考慮して入居が決められる。

佐藤さんの母親は要介護5だったこともあり、今年4月にオープンした中野区8番目の施設、「東京総合保健福祉センター 江古田の森」の特養に入居できた。この施設だけでも定員100人に対して464人の入居希望があった。施設の少ない東京、埼玉、千葉などでは、「待機者リストの10番目に入って初めて、1~2年のうちに入れる」(「江古田の森」・菊地弘特養施設長)というのが実情だ。

全国でも特養の数は圧倒的に足りない。厚労省によると、入居待機者は全国で約38万人と、現在の特養入居者と同規模いるというデータがある。この数字には、複数の施設へ入居希望を出しているケースも含まれるため、正確な数はわからないものの、相当数の高齢者が入居を待っている状態だ。

特養の設置は自治体か社会福祉法人に限られ、費用の多くが補助金で賄われている。特養が足りないのは明らかだが、自治体の負担が大きいため施設数は限られているのだ。どの市町村でも待機者は増える一方だ。

「特養は安い」の常識が個室化で変化

公的施設である特養は入居者負担も比較的安価なことがメリットといわれてきたが、最近ではこの“常識”も転換期を迎えている。

従来は4人部屋が主流だったが、01年以後は個室でなければ新たに設置することはできなくなった。10人(10室)をひとまとめにして介護するユニット型という仕組みだ。プライバシーのなかった相部屋をやめ、生活の場として個人を尊重するという点では前進にも思える。

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