まるで「持ち込み原稿」?論文審査の裏側 ふつうの人はほとんど知らない研究評価システム事情

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どんな有名人や大御所も、持ち込み原稿で勝負!

さて、経済学者は論文を書いたら出版を目指して専門誌に投稿する。これは漫画の世界で言えば、連載ではなく「持ち込み原稿」みたいなものと思えばいいだろう。ごく例外的な場合を除いて、経済学ではどんな有名人や大御所でも、持ち込み原稿で勝負するわけだ(例外としては、ノーベル賞などの有名な賞を取った受賞記念講演の内容を載せるジャーナルがあったりする)。

もう少し詳しく書くと、投稿された論文はまずはEditor(編集長)のところに送られる。一目で水準に達していないとわかる論文に対しては編集長が掲載拒否の判断を下すこともあるが、これはわりに珍しい。

現代の学問は専門領域が細かく分かれているのが普通で、経済学もこの例に漏れない。よって、その良しあしをすぐに判断できないことのほうが普通なのだ。そのうえ、投稿される論文の数はかなり多い(メジャーなジャーナルだと年間500~1000くらいのようだ)ので、編集長がこれ全部の判断を引き受けるのは難しいだろう。

というわけで、普通は編集長さんがAssociate Editor(編集委員)と呼ばれる人たちに論文掲載の判断を依頼する。編集委員は各ジャーナルに数十人いて(30~50人くらいが普通のようだ)、投稿されてくる論文のさまざまな専門領域に対応できるよう、いろんな分野の研究者が任命されている。

編集委員だって、すべてを自分で判断したりはしない

さて、これらの編集委員にしても、やはりたくさんの論文を扱っていて、すべてを自分で判断できるわけではない。そこで普通は、編集委員がさらにレフェリー(審査員)に、論文を読み評価することを依頼するのだ。

レフェリーの仕事を日本語では査読と言ったりするが、査読というのは要するに読んで字のごとく、読んで審査することだ。1本の論文を査読するレフェリーの人数はまちまちだが、だいたい2~4人くらいが平均的な人数だと思う。

で、このレフェリーたちがやることは2つある。ひとつ目はレフェリーレポートという報告書を著者と編集委員向けに書いて、いろいろと改善の注文をつけること。2つ目は掲載を勧めるかどうかを、理由つきで編集委員に伝えることだ(ひとつのレフェリーレポートに両方まとめて書かせるジャーナルも多い)。

レフェリーから意見が上がってきたら、編集委員はそれを参考にして論文を掲載すべきかどうかの判断をし、編集長に伝える。よっぽどのことがないかぎり編集委員の判断が尊重されるが、場合によっては編集委員の判断を編集長が覆すこともある。

経済学の場合だといきなり掲載が決まるということはあまりない。さっき書いたとおり、レフェリーがいろいろと論文に注文をつけてくるので、著者はそれに従って論文を変更するか、もしくは反論の文章を添えて改訂したものを再投稿して、また判断を求めるというのが普通だ。

そして運がよければ掲載決定、悪ければ拒否。第2回、第3回の改訂要求が来ることも多くて、その場合は上記のようなプロセスを繰り返すことになる。

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