「結婚圧力vs.寿退社圧力」どちらが重い? 家庭 or 職場の人生プラン、女性たちの葛藤いまむかし

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キャリア女性は結婚の通例を無視したのだから……?

結婚は、適齢期なのに結婚していない者への結婚圧力を排除してくれるというわけだ。この結婚の肯定はあくまで職場を前提としたものではあるけれど、仕事と結婚との幸せな結婚を強調するものだ。

この表明は、荒谷が、寿退社せずに働き続けることで受けるであろう寿退社圧力より、結婚圧力のほうが重いと受け止めているという点からも興味深いけれど、この時点まで20代の若手編集長でさえ結婚と仕事を相反するものとしてとらえていたということをも示している。

つまり、「結婚→家庭」「独身→職場」という二者択一が無意識のうちに前提とされていたのだ。そんな視角から雑誌を読み返してみると、確かにこの頃までは「家庭or職場」という構図の記事が多い。たとえばある記事は、キャリア女性が高齢(と言ってもせいぜいアラフォーなのだけれど)になって結婚紹介所に駆け込むのをイヤラシく揶揄している。

「しかるべき年齢に達し、しかるべき時期が来ればだれもが結婚を考え、そしてやがて結婚していく。これは世間の通例である。そしてこの通例を無視したところで、キャリア女性たちの結婚想定図のようなものがあったのではないか」

キャリア女性は結婚の通例を無視したのだから、結婚の困難を覚悟しなきゃならないというのだ。

でも、こういった形の「結婚→家庭」or「独身→職場」という構図は、先の表明以降少なくなってゆく。この背景には、一方では、結婚しながら働く女性が社会的に想定されるようになったことで、先の構図でいうところの「→」が崩れてきたこと、他方では、結婚しているかどうかを別にして、女性が働くこと自体の難しさが顕在化したことで「家庭or職場」という構図の魅力が減じてしまったという事情があったのだろうと想像する。

こうして、結婚と「家庭or職場」を単純に結び付ける議論は薄れてゆき、結婚論の領分は急速に縮小することになったのだ。

「週刊東洋経済」2014/3/29号(経済超入門)
 
 

榛原 赤人
はいばら あかひと / Akahito Haibara

1988年生まれ。都内某大学院の社会科学分野博士課程に在籍。17歳の頃から結婚をめぐるもろもろに関心を持ち、婚活ブーム以降は、その思想的背景に注目して、机上での結婚探求を行っている。
 

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