東京裁判とその後 B・V・A・レーリンク著/小菅信子訳

拡大
縮小
東京裁判とその後 B・V・A・レーリンク著/小菅信子訳

東京裁判というと全員無罪を主張したインドのパールばかりが日本では評価されるが、法的な面からすればオランダのレーリンクははるかに貴重な貢献をしている。政治的結論が先にあった多くの判事と違って、恣意性なしにひたすら法に即した冷静な議論を展開して重光、広田ら文官無罪を主張した。戦時における政治家の役割と責任への言及は極めて説得力がある。

本書編者との対談で引き出される著者の裁判観、法解釈、あるべき法律論、どれも興味深い。個々の判事、被告からマッカーサーまで人物評の面白さもさることながら、日本の社会や文化まで理解しようとする努力や「戦争へ追い込まれていく日本」を論じる個所などには司法の理想を見る思いがする。国際法の立場から戦争と平和を終生考え抜いた法学者の姿が印象的だ。昨今、東京裁判史観が賑やかだが、少なくとも本書を熟読玩味してから論じ考量してほしい、そう訴えられている気がしてくる。(純)

中公文庫 820円

  

関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT