コロナの影響で「葬儀」はどのように変わるのか 悲しみとの折り合いをつける「グリーフケア」

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開催事例が増えてきたとはいえ、まだまだ「お別れ会」と聞いて戸惑う人は多いが、「お別れ会」参加経験がなく、不安な気持ちで会場に足を踏み入れた人も、故人の家族や懐かしい仲間と再会し、故人の思い出話をすることで、「来てよかった」「これで前に進める」と晴れやかな表情で帰ることができるという。

重要なのは「当事者たちの納得のプロセス」

現在、新型コロナウイルスで亡くなった人の葬儀だけでなく、3密を避ける意味から、葬儀自体が開きづらい状況になっている。これから先、別れが不十分のため、心の内にグリーフを抱えてしまう人が増える可能性は高い。

「お別れ会」を計画することは、故人と向き合い、悲しみに折り合いをつけることにつながる。今のような状況がいつまで続くかは不透明だが、終息した暁には、故人はもちろん、遺された人たち自身のために、きちんとお別れをする場を設けることをおすすめしたいが、それと同時に、既存の葬儀以外の弔い方・偲び方を模索する必要があるだろう。

長野県上田市には、ドライブスルー方式で車から降りずに参列できる葬儀場があるが、そんな設備を導入するには時間がかかる。

例えば、「Skype」「Facetime」「Zoom」などのインターネットツールを使う。触れ合うことはできないが、顔が見える状態で会話をすることで、大切な人との思い出を共有したり、抱えた悲しみを受け止め合うことはできる。

「インターネットを使った葬儀なんて……」と言う人がいるかもしれないが、重要なのは、「当事者たちの納得のプロセス」だ。

私は昨年、父を亡くした。

年末年始に帰省し、1月4日に別れたときは元気だったにもかかわらず、23日に突然脳梗塞で倒れた。その際、すぐに再帰省し、無事一命を取り留めた父に会うことができた。ところが、順調に回復しているように見えた父は、長年糖尿病を患っていたため、腸が壊死し始めていた。気付いた頃には手の施しようがなく、1日保たずに亡くなった。私は突然の病状悪化に対応が追いつかず、父の死に目に会うことはできなかった。

しかし、後悔はない。なぜなら、倒れた後すぐに帰省し、無事一命を取り留めた父に会うことができたから。そして、父はかねてから「58歳で死んだ親父より10年も長生きできた。もういつ死んでも悔いはない」と話していたからだ。

私は「自分ができるだけのことはした」と思っているし、父は「悔いはない」と言っていた。そこにはグリーフが残る余地はない。

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「当事者たちの納得のプロセス」さえあれば、道具は何を使おうが、悲しみとの折り合いをつけることは可能だ。現在の状況や葬儀の役割を理解したうえで充分に話し合い、団結して行うのなら、本質は変わらないはず。インターネットツールを使いこなせない人には葬儀会場に来てもらうでもいいし、葬儀社の人が自宅を訪問してサポートするでもいいかもしれない。

大切な人を亡くしたときに受ける心の痛みは、目に見えないだけで、ケガや病気と同様に、治療や手当が必要だ。

このコロナ禍で、働き方や価値観など、さまざまなものが大きく変化するだろう。しかしグリーフは、変わらず存在し続ける。これまで当たり前だったことが当たり前ではなくなっても、「自分にとって本当に必要なものは何か」という基準で物事を判断し、自分らしく儀式を執り行うことで、悲しみと折り合いをつける工夫をしてほしい。

旦木 瑞穂 ライター・グラフィックデザイナー

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たんぎ みずほ / Mizuho Tangi

愛知県出身。印刷会社や広告代理店でグラフィックデザイナー、アートディレクターなどを務め、2015年に独立。グルメ・イベント記事や、葬儀・お墓・介護など終活に関する記事の執筆のほか、パンフレットやガイドブックなどの企画編集、グラフィックデザイン、イラスト制作などを行う。主な執筆媒体は、産経新聞出版『終活読本ソナエ』、鎌倉新書『月刊「仏事」』、高齢者住宅新聞社『エルダリープレス』、インプレス「シニアガイド」など。

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