「地味」なドロップボックスが人気化した理由 “本当の便利”は、まだまだ見つかっていない

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スタートアップに関する、数々の勘違い

ハウストンは、起業について勘違いされている数々の点を指摘する。

そのひとつは、経験のある起業家だけが成功するわけではないということ。シリコンバレーではすでに何度も起業を経験してきたシリアル・アントレプレナーがたくさんいる。経験を積み、コツを知った彼らには強みがあるだろう。

だが、ハウストンは言う。「いろいろなことを知っているのは、確かに資産になる。けれども、キャリアを積んでいくにつれて、世界のことがわかったような気になると、固定したメンタル・モデルを作ってしまい、フレキシブルでなくなるんだ」。ドロップボックスは、知らないからこそできたことがたくさんあったという。

また、市場に一番乗りしなくても成功する道はある。ドロップボックス以前に、似たようなサービスを提供していた会社はいくつもあった。グーグルの前にはヤフーがあり、フェイスブックの前にはマイスペースがあった。ドロップボックスは、同じ問題を本当に使いやすく解決したことで人気を得ていったのだ。

ハウストンは、知らないことを学ぶために、システマティックに勉強もしたそうだ。週末は何冊もの本を持ってアパートの屋上に上がり、ずっと読み続けた。テクノロジー、セールス、財務など、分野ごとに評価が高い入門本をアマゾンで買い、それをこなしていったのだ。

それでも、刻々と変化するテクノロジー業界や会社の状況によって、6カ月ごとに新しいことをどっさりと学ばなければならなくなるという。集中し、しかも速すぎると感じるほど素早く行動することが必要だと、ハウストンは強調する。

本当の便利さとは何か。ドロップボックスのアイデアの根源は、それを探ることにあった。2億人というユーザーが気に入ったのも、その点である。

 

 

瀧口 範子 ジャーナリスト

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たきぐち のりこ / Noriko Takiguchi

フリーランスの編集者・ジャーナリスト。シリコンバレー在住。テクノロジー、ビジネス、政治、文化、社会一般に関する記事を新聞、雑誌に幅広く寄稿する。著書に『なぜシリコンバレーではゴミを分別しないのか? 世界一IQが高い町の「壁なし」思考習慣』『行動主義:レム・コールハース ドキュメント』『にほんの建築家:伊東豊雄・観察記』、訳書に『ソフトウェアの達人たち:認知科学からのアプローチ』(テリー・ウィノグラード編著)、『独裁体制から民主主義へ:権力に対抗するための教科書』(ジーン・シャープ著)などがある。

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