買い手のベネフィットをいかに伝えるか コロムビアミュージックエンタテインメント取締役名誉相談役・廣瀬禎彦氏②

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ひろせ・さだひこ 1943年生まれ。69年日本IBM入社。広報・宣伝部長等歴任。96年アスキー専務、98年セガ副社長。99年アットネットホームを設立し社長に。2004年コロムビアミュージックエンタテインメントCEO就任、09年5月退任し、取締役名誉相談役に。

売れない時代にどう売るか。私はIBMにいたときに面白いことを学びました。営業というのは、絶海の孤島の灯台守に車を売るぐらいのこと。走るところがない場所で車を売る、そのぐらい腹をくくって営業をやりなさい、と。つまりモノ以外の価値を付けなければいけないということです。

 その価値を決めるのはお客さんです。売り手の価値で「いいですよ」といくら言っても、買ってはくれない。買い手の立場になり、買い手にとっての価値を設定して売るのです。お客さんがいちばん嫌がるのは「売りつけられた」ということ。そういう感情を持たれないよう、お客さんにとっての「お得感」を出すことが大事なのです。

お客さんへのお得感を出すと、売る側は損をするという人がいますが、それは違います。両者にとってウィン・ウィンの関係を作ることは可能です。お客さんにとってのお得感の価値基準は、売り手にとっての価値基準と違うことが多いから。

日本で言えば鰻屋です

お客さんが買うと決断するのは、製品や売っている人に信頼感を持てるときです。たとえばコンピュータは、思いどおりに動かなかったときに相談に乗ってくれるという信頼感があるかどうかが、最後の決め手になります。お客さん自身が納得することが必要なのです。こっちのほうが安全だとか、こっちのほうがいざというときに対応してくれるからといったことが決め手になるのです。

私はこのようなことをアメリカのIBMで学びました。58歳ぐらいのマーケティングのプロから、「フィーチャー、ファンクション、ベネフィット」という言葉を教わりました。フィーチャー(特徴)やファンクション(機能)だけではモノは売れない。お客さんにとってのベネフィット(利益)を伝えなければ買ってくれない、ということです。

日本で言えば鰻(うなぎ)屋です。鰻屋は、どこそこの天然物ですなんて、特徴や機能は言わず、お客さんのベネフィットである“おいしい”ということを、うちわであおぎ、においで伝えるから売れるのです。カメラで言えば、露光指数のISO感度が6400ありますと言っても売れません。暗い街中でも人の顔が撮れます、夕暮れの渋谷で、あなたの彼女の表情をフラッシュなしで撮ることができます、と言って売るのです。音楽でも、このCDであのときのライブの感激を思い出してくださいと言って売るのです。こうして機能をベネフィットに言い換えてお客さんに伝えることが営業では大切なのです。

週刊東洋経済編集部
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