夫の策略で「強制入院3カ月」妻が味わった悪夢 精神疾患の既往歴なしの人が精神科病院に幽閉

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夫からの一方的情報で、Bさんは統合失調症(Sc)の疑いありとして医療保護入院させられた。東日本大震災の年で、放射能への恐怖は日本中が感じていた時期だ(記者撮影)

結局、5日間の経過観察を経て、「特記すべき精神病症状を認めない」として退院が決まった。「夫は離婚が避けられないなら、子供の親権を取るために私を強制入院させようと画策したようです。もめ事は絶えませんでしたが、まさかここまでやるとは。それに法治国家の日本で本当にこんな拉致・監禁がまかり通っている現実にもショックを受けました」(Bさん)。

DV夫の格好の「武器」に

DV被害者支援と加害者更生に取り組む、一般社団法人エープラスの吉祥眞佐緒代表理事によれば、離婚を有利に進め子供の親権を得るために、この医療保護入院が悪用される事例の相談は、ほぼ切れ間なくコンスタントに寄せられるという。

いま吉祥代表が支援しているのは下記のようなケースだ。首都圏在住の30代派遣社員の女性Cさんは、夫からの数年にわたるDVで不安定となり、精神科クリニックに通院していた。ある時言い争いの末のショックで、精神安定剤などをオーバードーズ(大量服薬)したことで、夫の同意で精神科病院に医療保護入院となった。

入院から3カ月経って、ようやく一時帰宅が許され自宅に戻ると、すでに自宅はもぬけの殻で、夫と子供の行方がわからなくなってしまった。住民票にも閲覧制限がかけられ探す手段がなく、途方に暮れているという。「数日間で出られれば子供を奪われずに済んだはず。医師はその時々の症状をちゃんと診断し、社会での生活能力があれば退院させるべきです。家族の意見ばかり聞くのではなく、本人の意見もしっかり聞いてほしい」(Cさん)。

「DV加害者の夫はたいてい外づらが非常によく、病院関係者だけでなく、行政職員や警察も女性を虐待加害者だと欺く話術を持っている。ヒステリックな妻と穏やかな夫というイメージの演出に長けている」と吉祥代表は実情を語る。

医療保護入院制度は、そんな彼らには格好の「武器」となっている。(第4回に続く)

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風間 直樹 『週刊東洋経済』編集長

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かざま・なおき / Naoki Kazama

1977年長野県生まれ。早稲田大学政経学部卒、法学研究科修了後、2001年東洋経済新報社に入社。電機、金融担当を経て、雇用労働、社会保障問題等を取材。14年8月から17年1月まで朝日新聞記者(特別報道部、経済部)。復帰後は『週刊東洋経済』副編集長を経て、19年1月から調査報道部、同年10月より現職。著書に『雇用融解』(07年)、『融解連鎖』(10年)、電子書籍に『ユニクロ 疲弊する職場』(13年)など。

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