(第25回)いつの間にかのスリム法・その3

山崎光夫

 食事のとき、よく噛んで時間をかけて食べると、ひいては体重減少につながる。これは時間をかければそれだけ唾液が分泌されるからである。

 私はあるときこんな経験をした。
 夕食の途中で電話がかかってきたのである。食事の時に何で電話か、とつい気分は苛立ったが、これが案外大事な電話だった。15分は話しただろうか、電話を切って再び食卓に戻った。すると目の前にある好物の料理が食べられなくなってしまった。
 これは結局、中座した間に、食欲が削がれたためだった。ヒトの満腹中枢が働くのは、食事を始めておおむね20分後からとされる。私の体験は、この“20分満腹中枢”を作動させてしまったための食欲減退だった。

 肥満者に早食いが目立つ。早食いが先か、肥満が先かは分からないが、早食いと肥満はセットのようだ。これは満腹中枢を刺激する前に大量の食事量を摂取してしまうからだと思われる。また、食べ放題の店ではとにかく早食いするのが得、といわれる。さらに、その昔、軍隊では、「早メシも芸のうち」といわれたものだが、現代生活においては、「早メシ」は肥満を誘発し、生活習慣病の元凶となる。

 ヒトの体は実によくできている。あまり早く満腹感が出ては、食べる楽しみは失われるし、生きる上で必要な食物も摂取できない。

 満腹までの20分の猶予は天のなせる業といえるだろう。
 体重を減少させるためには、満腹中枢を作動させるためにゆっくりと食事したいものである。食事の絶対量を減らすために、3度の食事にそれぞれ最低20分以上ずつかけたいと思う。
 食事時間を確保すれば必然的に咀嚼回数が増える。咀嚼回数が増えれば、唾液量も増加する。唾液量が増加すれば全身に潤いをもたらして体形のスリム化がはかれる。良循環である。
 咀嚼回数を増やすについては、いつかこの連載で紹介したが(第2回3回)、食卓に箸置きを用意するのが一方法である。
 食事中に箸を置いて噛むのを習慣づけるのが良策である。
 前に、「唾液は多益」と書いた。
 友人の歯科医にきいた話では、唾液の多い人は虫歯にも、歯槽膿漏にもなりにくいという。唾液が口中を洗浄、殺菌しているからである。

 日本歯科医師会では、「8020(ハチマルニイマル)」運動を展開中である。80歳になっても自分の歯を20本以上保とうという運動である。1993年の調べでは、70歳前半の年齢で8020をクリアしている人は、4人に1人という。逆にいえば、4人に3人は自分の歯が20本以下に減っているのである。
 いかに唾液を出すかが鍵となる。顎の動きを柔軟にするのがひとつのポイント。下顎を左右に20~30回動かすと、これだけで唾液が出やすくなる。

 おしゃべりも唾液の分泌を促す。「女子アナに肌あれなし」といわれるのも、アナウンサー稼業で舌を使うので、必然的に唾液が分泌されるのである。
 以前私がラジオ番組に出演したときに、アナウンサーがトイレやスタジオ内で舌を震わせたり、早回しして音を出しているのを見た。唾液の分泌を促すことで滑らかな言葉使いをめざしていたのだろう。アナウンサーには唾液が強い味方だ。

 私が唾液出し策として考えたのが、コンブやさきイカ(イカの燻製)の「おしゃぶり作戦」である。デスクワーク中でも唾液をだせる。コンブは口中で旨味がにじみ出てきて、1片で10分近く持つ。
 「おしゃぶり作戦」のよいところは、コンブもサキイカもそのまま食べてしまえばいい点である。“ごちそうさま作戦”でもある。
山崎光夫(やまざき・みつお)
昭和22年福井市生まれ。
早稲田大学卒業。放送作家、雑誌記者を経て、小説家となる。昭和60年『安楽処方箋』で小説現代新人賞を受賞。特に医学・薬学関係分野に造詣が深く、この領域をテーマに作品を発表している。
主な著書として、『ジェンナーの遺言』『日本アレルギー倶楽部』『精神外科医』『ヒポクラテスの暗号』『菌株(ペニシリン)はよみがえる』『メディカル人事室』『東京検死官 』『逆転検死官』『サムライの国』『風雲の人 小説・大隈重信青春譜』『北里柴三郎 雷と呼ばれた男 』など多数。
エッセイ・ノンフィクションに『元気の達人』『病院が信じられなくなったとき読む本』『赤本の世界 民間療法のバイブル 』『日本の名薬 』『老いてますます楽し 貝原益軒の極意 』ほかがある。平成10年『藪の中の家--芥川自死の謎を解く 』で第17回新田次郎文学賞を受賞。「福井ふるさと大使」も務めている。
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