「数学の学び直し」が文系人材にウケている理由 大切なのはデータを読み解き意思決定する力

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「いわゆる“文系”の人こそ、数学を理解することで大きな価値を生み出せます」

そう強調するのは、社会人向けにデータサイエンス教育を行うデータミックスの堅田洋資社長(37)だ。

「仕事で必要とされるのは単なる数学の知識やデータを扱うスキルではなく、問いや仮説を立ててデータを集め、それを読み解く力です。豊富な知識や経験に数学やデータサイエンスのスキルをプラスすることで、データを生かした意思決定や業務改善ができるようになります」

社会人向け数学の「学び直し」講座が盛況

データミックスの「データサイエンティスト育成コース」では、6カ月かけて統計学や機械学習の知識、実際にデータ分析をする際に必要なプログラミングのコードを書くスキルなどを学ぶ。入学金・受講料合わせて費用は70万円(税別)と決して安くはないが、これまで600人以上が受講したという。

国もこうした「学び直し」を支援している。経産省は18年、データやIT、AIなど将来性の高い分野における専門的・実践的な講座を「第四次産業革命スキル習得講座」として認定。厚生労働省の「専門実践教育訓練給付金」と連動していることから、一定の条件を満たせば受講料の50~70%が戻ってくる。前述のデータミックスの講座も対象だ。

17年の開講当初は、受講生の多くが金融やIT業界で働く人たちだったというが、最近は業界や職種に広がりが出てきたという。

例えば受講生の1人、東大法学部出身の喜綿信さん(47)は、神奈川県内の企業の法務部で働く。法務は数学や統計とあまり関係ないようにも思えるが、「本来得られたであろう逸失利益の計算や、裁判や交渉の場で、相手を納得させられる妥当な数字を出すときに数学やデータサイエンスの知識があると有利と思い、受講を決めた」という。

データサイエンティストを養成するデータミックスの講座は主に文系ビジネスパーソン向け(撮影:岡田晃奈)

「最近目立つのは人事部門の受講生です。これまで人事では経験と勘が重視され、データに基づいた意思決定から取り残されてきましたが、この1~2年で社内にある社員や採用のデータを人事施策に活用しようとする企業が増えています」(堅田社長)

数学を学ぶことで、組織を動かした人もいる。

出版取次大手に勤める男性(32)は、私立大学の文学部社会学科出身。大学受験では数学を選択しなかったが、社会人になって数学の必要性を感じる場面が増えたという。

「例えば、平均で毎月どれくらい売り上げが伸びたかを出すときは、一般的な(算術)平均の考え方ではなく、幾何平均を使う。自分の中に引き出しを増やしたくて、勉強を始めました」

最初は独学で勉強していたため、つまずくことが多かった。そこで、ネット検索で見つけたデータミックスの講座を18年7月から6カ月間受講した。授業は週1日約3時間だが、授業後にはクラスメート有志数人で市販書籍の輪読会も行い、加えて毎日2~3時間自習し、集中的に勉強した。

数学を学んでいると、「これはあの課題解決に使えるかもしれない」と感じることが多く、業務で試してみることにした。

ある施策の効果について、立てた仮説が正しいかどうか統計学的に判断する「仮説検定」を使って検証し、部内で共有。「さまざまな手法でデータを分析し、意思決定の際にも勘や経験でなくデータを使って判断したほうがいい」と社内で訴えたところ、19年4月にAI推進専門の部署ができ、自身も配属された。

「ビジネスの下地があったからこそ、数学やデジタルの学びを業務に生かすことができました。自分はまだ入門レベル。これからも勉強を続けて、引き出しを増やしていきたい」

(編集部・深澤友紀)
 

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