【足達英一郎氏・講演】世界経済危機下のCSR(中編)

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●不況下でのCSR

 こうした状況の中で、CSRはどうあるべきかを考えなければならない。
 2月10日に、ジュネーブで「ヨーロピアンCSRマルチステークホルダー・フォーラム」が開催された。2年半ぶりの開催だったが、この会議で、欧州のNGOグループであるECCJ(企業の正義のためのヨーロピアン連合)が、ヨーロッパの他のNGOと組んでたいへん先鋭的な、次のような主張をした。「ECCJは、国際的に合意された基準に裏打ちされた規制によるアプローチこそ、企業の説明責任を果たさせるための基礎として必要だと信じる」というものだ。
 欧州委員会のCSRの定義は2000年に出ているが、欧州では、「CSRは、企業のボランタリー(自発的)な取り組みだ」と言われてきた。つまり、規制を超えたところで企業が自主的に取り組むものをCSRと定義してきたのだが、このECCJの主張は、そんな甘いことではだめだといっている。ECCJは、「自発的取り組みを排除すべきだとは考えないが、自発的取り組みは、企業セクターが社会、環境に対するインパクトについて説明責任を果たす第一歩にすぎず、より強い規制こそがそうしたアクションを補完するのに必要である」というものだ。これは、CSR論の1つの新しいアングルだと思う。
 そして行政の側でも、欧州委員会副委員長のフェアホイゲンは、同じ日のステークホルダー・フォーラムで、「欧州企業において、CSRの適用と実践が大きな成果を上げたことは間違いない事実だが、現下の経済金融危機は、これまでの認識を大きく変えている」と言っている。そして、「共産主義が終わったときリベラルな資本主義が勝利したと誰もが思っただろうが、市場メカニズムを無条件に受け入れることは間違いだった」と言っている。

 このように「市場は、最もすぐれたメカニズムだ」と長い間言い続けた人ですら、今、この誤りを認識している。「この危機から学ばなければならないことは、マーケットを社会の利益のために機能するようルールをつくらなければならないことだ」と主張しているのだ。
後編に続く、全3回)

[当講演は2009年5月14日に開催されました]
足達英一郎(あだち・えいいちろう)
株式会社日本総合研究所 ESGリサーチセンター長。
1986年一橋大学経済学部卒業。環境問題対策を中心とした企業社会責任の視点からの産業調査、企業評価を担当。金融機関に対し社会的責任投資のための企業情報を提供。
主な共著書に『図解 企業のための環境問題』(1999年、東洋経済新報社)、『SRI 社会的責任投資入門』(2003年、日本経済新聞社)、『CSR経営とSRI』(2004年、金融財政事情研究会)、『地球温暖化で伸びるビジネス』(2007年、東洋経済新報社)等。
社団法人経済同友会「市場の進化と21世紀の企業」研究会ワーキング・グループメンバー(2002年度)。ISO/SR規格化作業部会日本エクスパート(~2008年度)。
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