武力紛争の大半が「ベルト地帯」で発生する理由 「新型コロナ」が示す「新しい地政学」の必要性

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感染症対策に新しい対応方法が生まれるように、武力紛争に対しても新しい対応方法が生まれている。かつて冷戦時代には、国際的な平和活動を行うのは国連であり、国連平和維持活動だけが、明示的に平和を目的にして行われる平和ミッションであった。

21世紀の世界は、大きく異なっている。もはや国連は、国際平和活動を行う唯一の組織ではない。それどころか、地域機構・準地域機構や有志諸国連合のような取り組みとの「パートナーシップ」がなければ、もはや国連は平和活動を行うことはない。

ハイブリッド・ミッションと呼ばれたUNAMID、アフリカ連合(AU)が主要な平和活動を行って国連が支援に回るソマリアのAMISOMとUNSOS、国連が包括的な国家建設に近い活動を行いながら周辺諸国とフランス軍がテロ掃討作戦に従事するマリのMINUSMAとバラカン作戦のG5サヘルなどは、それぞれがユニークなパターンで展開している国際平和活動のパッケージだ。

筆者(左)とサイモン・ムロンゴ氏(AMISOM[アフリカ連合ソマリア・ミッション]DSRCC[アフリカ連合委員会委員長副特別代表])(写真提供:筆者)

近年の国際平和活動は多様化し、国連が中心になる場合、側面支援に回る場合、統合的に連携が模索される場合、さまざまな試みがなされてきている。そこで、共通しているのは、複数の組織が連携しあうことによって、相互補完的な効果を発揮しようとする態度である。

つまり国際平和活動も、ネットワーク構築型が標準であるという認識のもとに展開しており、その点だけが共通の特徴になってきている。だからこそ逆に、それぞれの形態は独自性の高いものになってきているのである。

教科書に書かれた標準的やり方が一律に適用されないのは、歴史的・地理的条件が、各地域で異なっているからなのだ。したがってここでも、ネットワーク構築の様態を決定するのは、歴史的・地理的条件だと言っても過言ではない。

例えばソマリアを例にとろう。ここでは、歴史的に、国連が威信を失墜させた失敗を犯した経緯がある。同時に、近隣に介入を辞さない地域大国が存在し、そして中東に近接して大海に面した戦略的要衝としてテロ勢力も地域外大国も関心を示し続ける場所でもある。

こうした洞察があるから、周辺国の関与を受け入れて国連が後背から調整する国際平和活動のやり方が、現実的な1つの落としどころとして立ち現れてくるのだ。

新しい地政学の時代の分析力と構想力

「新しい地政学」の時代の到来を、19世紀や20世紀の「古い地政学」の復活と誤認する間違いは、犯してはならない。古い「ビリヤード・モデル」型の発想は、時代遅れだ。そのような発想法に基づく「古い地政学」もまた、時代にそぐわない。

地理的条件を分析するのは、多様なアクターが相互浸透とネットワーク構築を展開させている状況をよりよく分析するためだ。そうでなければ現実に即した対応策も構想できない。21世紀の現実が、「新しい地政学」の分析と構想を求めているのである。

篠田 英朗 東京外国語大学大学院総合国際学研究院教授

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しのだ ひであき / Hideaki Shinoda

1968年生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了。ロンドン大学(LSE)博士課程修了。ロンドン大学(LSE)Ph.D.(国際関係学)。広島大学平和科学研究センター准教授などを経て現職。専門は国際関係論。著書に『平和構築と法の支配』(創文社、大佛次郎論壇賞受賞)、『「国家主権」という思想』(勁草書房、サントリー学芸賞受賞)、『集団的自衛権の思想史』(風行社、読売・吉野作造賞受賞)など。

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