「花畑牧場」ブランドの価値とは何か?《それゆけ!カナモリさん》

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 アーカーによれば、ブランドには「顧客が認めている、その製品ならではの価値」があるという。客観的に測定可能な価値を「工場品質」というが、ブランドが持つ「知覚品質」とは、工場品質に対して、顧客の頭の中にある主観的な評価だ。

 顧客が「白い恋人」や「マルセイバターサンド」を評価するのは、「北海道ならでは」という「知覚品質」を買っているのである。

 「花畑牧場」は確かに、東京進出によって、「全国区のメジャーブランド」という知名度を手にした。しかしその代償として失ったものは、北海道土産としての「知覚品質」ではなかっただろうか。

 では、「北海道土産」ではないとしたら、「花畑牧場」はどのようなEvoked setに入っているのだろうか。それは、もしかすると「流行りもの」というカテゴリーかもしれない。

 流行りものは廃れるのも早い。「一度は味わってみよう・買ってみよう」という一見客は集められても継続顧客化することは難しい。「知覚品質」も、「流行りもの」という前提条件の下で評価されてしまう。

 一方、北海道土産というEvoked setに入っている 「白い恋人」や「六花亭」は、北海道に行くたびに買ってしまうという継続顧客を生む。さらには、「北海道に行く」という人に「買ってきて!」とリクエストする人も囲い込む。

 前出の大西氏の指摘にある、花畑牧場の「ブランドとして離陸の段階から維持継続、さらに成長と進化」は容易な道ではないように思われる。

 田中氏の理念は素晴らしい。前出の東洋経済でのインタビューでは、「花畑牧場は地方再生、雇用創出を目指してやっている」「このままでは日本の農業は終わってしまう。オレは日本の農業がちゃんとビジネスとして成り立つようにしたい」などと語っている。

 それだけに、拡大をあせらず、誰からも愛されるブランドへと育て上げてほしい。都心進出が本当にベストアンサーなのか、もう一度熟慮してほしいと願う。

《プロフィール》
金森努(かなもり・つとむ)
東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道18年。コンサルティング事務所、大手広告代理店ダイレクトマーケティング関連会社を経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。
共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダイヤモンド社)。
「日経BizPlus」などのウェブサイト・「販促会議」など雑誌への連載、講演・各メディアへの出演多数。一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。
◆この記事は、「GLOBIS.JP」に2009年11月27日に掲載された記事を、東洋経済オンラインの読者向けに再構成したものです。
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