ビル・ゲイツ「コロナ対策は巨額投資が必要だ」 100年に一度の病原体として扱うべきだ

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もう1つの技術的課題には、デオキシリボ核酸(DNA)の構造に関するものだ。DNAワクチンは、ウイルスのゲノム配列が特定された数時間後に生産することができるが、これを大規模に生産する方法を見つける必要がある。

こうした技術的解決策の先にあるのは、国際的な協力およびデータ共有を実現する外交的努力の必要性である。抗ウイルス剤や、ワクチンの開発には大規模な臨床試験と、国をまたいでのライセンス契約が伴う。

有望なワクチンおよび抗ウイルス剤候補が、これらのプロセスを迅速に通過することを可能にするためにも、研究優先順位と試験プロトコルの合意につながるような国際フォーラムを最大限に活用すべきだ。例えば、世界保健機関R&Dブループリント、国際重症急性呼吸器・新興感染症協会、感染症のアウトブレークに対する国際連携ネットワークといった機関だ。これにより、患者の安全面で妥協することなく、3カ月程度で包括的な臨床試験の結果と承認を手にすることができる。

数十億ドルの「投資」はむしろ安い

資金的な問題もある。コロナウイルス対策予算は今の何倍にも大きくする必要がある。第III相臨床試験の完了とコロナウイルスに関する規制当局の承認を確保するためには、さらに数十億ドルが必要だ。疾病監視と対処を改善するためには、それ以上に多くの資金が必要になる。

パンデミック対策製品への投資は極めてハイリスクであるため、政府による資金援助が不可欠である。公的資金は製薬会社のリスクを最小限に抑え、熱心な取り組みを可能にする。加えて、政府と援助機関は、地球公共財として、数週間でワクチンの供給を創出できる製造施設に融資を行う必要があるだろう。平常時には定期予防接種のワクチンを作ることができ、パンデミック時には迅速にパンデミック対策製品の製造に対応することができるような施設だ。

政府はさらに、必要とする人々のためにワクチンを調達・供給するためにも資金援助をする必要がある。

パンデミック対策には確かに何十億ドルという巨額の投資が必要だ。だが、この問題を解決するにはこの程度の投資が必要だ。エピデミックが課する経済的な痛みを鑑みれば、むしろ安い。私たちはすでにCOVID-19が、人々の生活は言うまでもなく、いかにサプライチェーンや株式市場を混乱させうるかを目の当たりにしている。

最終的には、政府と産業界が合意に達する必要があるだろう。パンデミック時には、ワクチンや、抗ウイルス剤を単に最高入札者に売り渡すことはできない。こうしたものは、集団発生の真っ只中にいて、極めて必要性の高い人々にとって、入手可能で手の届く価格であるべきだからだ。そうなるように流通させることは正しい行為であるだけでなく、感染を抑制したり、これから発生するパンデミックを予防したりするための正しい戦略でもある。

これらは各国のリーダーたちが今すぐ取るべき行動だ。時間を無駄にしている場合ではない。

The New England Journal of Medicine ©2020.

Translated by Toyokeizai Online, with permission of the Massachusetts Medical Society

ビル・ゲイツ 米マイクロソフト共同創業者
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