岩隈久志は、なぜメジャーに適応できたか 日本式からアメリカ式への適応

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新しい環境で評価されるために

日本とアメリカでは、評価の基準も異なる。岩隈によると、日本で求められるのは「先発完投や、勝ち星」。一方、アメリカでは「ケガせず、7イニングを投げること」。岩隈は先発間隔や評価基準の違いを考え、メジャーの先発として何をすべきか突き詰めた。

「中4日で先発しながら、100球という球数の中でいかにゲームプランを立て、少ない球数でアウトを取っていくかと考えています。そのほうが変なストレスもないですし、疲れもたまりません。シーズン162試合のメジャーでは休みも少ないですけど、うまく体を動かしながらやっていけるので、自分には合っていると思います」

メジャーでの生活は、毎日が楽しくて仕方がない。その理由は、日米で先発投手の過ごし方が異なるからだ。日本の先発投手には「あがり」と言われるシステムがあり、登板予定のない試合ではベンチに入らず、チームに帯同しないこともある。一方、メジャーでは登板しない日もベンチに入り、つねにチームと行動を共にする。そうしたアメリカスタイルは、大きな収穫につながった。

「メジャーの試合をベンチで見るのは勉強になるし、いろいろ考えます。やっぱり、みんなで戦っているという感覚もあるので。そういったところも新鮮で、『これが野球だよな』って思いました」

新天地に飛び込めば、必ず不便に感じることはあるだろう。だが、文句を言うのではなく、まずは受け入れてみるべきだ。環境により、違いが生じるのはなぜか。そうやって好奇心を持つことで、新しい財産を獲得できるか可能性がある。

岩隈はメジャーリーグに移籍した理由について、こう語っていた。

「ワールド・ベースボール・クラシックを経験して、アメリカは球場の雰囲気も、全然、違いました。そこでいろんなことを感じて、挑戦したくなってきたというか。日本にはすごくいいものがあるんですけど、日本で求められるものは限られてきて。だったら、そんな自分の気持ちに応えたいという感じが、だんだんしてきました。たとえば挑戦することで何が生まれるかと考えると、いろいろと広がるじゃないですか。自信があったとかではなく、やってみたい、いろんなものを見つけてみたいと思いましたね」

同じ環境に長らく身を投じていると、どうしても飽きる気持ちが生じてくる。だったら一層、新天地に飛び込んでみたほうがいい。

4月から新たな環境に身を投じる人は、「ラッキー」と考えたほうが、好結果に結び付くはずだ。

中島 大輔 スポーツライター

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なかじま だいすけ / Daisuke Nakajima

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。2005年夏、セルティックに移籍した中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に野球界の根深い構造問題を描いた「野球消滅」。「中南米野球はなぜ強いのか」(亜紀書房)で第28回ミズノスポーツライター賞の優秀賞。NewsPicksのスポーツ記事を担当。文春野球で西武の監督代行を務める。

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