第1回 質問・雑談力 | 足で稼いだ仕事力、教えます sponsored by 朝日新聞「未来メディアプロジェクト」 ブランドコンテンツ

第1回 質問・雑談力

第1回 質問・雑談力

本質を見抜く質問、
関心を引く話し方とは

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ビジネスの現場で必要な力の一つに質問・雑談力がある。質問がうまくなれば、営業で顧客から大事な情報を聞き出せるし、適切な質問こそ、問題解決の第一歩となる。雑談がうまくなれば、会社での人間関係が円滑になり、質問がうまくなる手助けにもなる。そこで今回は、質問することが仕事である二人のプロフェッショナルに話を聞いた。一人は大企業からベンチャー企業まで、約5700人の経営者に質問してきたカリスマファンドマネジャーの藤野英人氏、もう一人はスポーツ記者としてオリンピックやサッカーを中心に多くの著名アスリートを取材してきた朝日新聞記者の稲垣康介氏だ。異業種である二人だが、そのノウハウでは共通点も多いという。現場で多くの経験をしてきたからこそスキルを身に付けられた二人の話には、質問力を高める多くのヒントが隠されている。


藤野英人
レオス・キャピタルワークス取締役・最高運用責任者。1966年生まれ。野村アセットマネジメント、JPモルガン、ゴールドマンサックス系の資産運用会社を経て、2003年にレオス・キャピタルワークスを創業。日本株に投資する「ひふみ投信」を運用。『スリッパの法則』『投資家が「お金」よりも大切にしていること』など著書多数。

どのように質問すれば
相手は心を開いてくれるのか

稲垣 私は、これまで多くのアスリートを取材してきましたが、質問力の中で最も大事なのは、準備力だと思います。その人の情報をどれだけ知っているのか。事前の情報量が多ければ多いほど、自分がどれくらい相手のことを知りたいと思っているのかわかってもらえる。私は質問する前に、いかに準備するかを日頃から気をつけていますね。

藤野 質問力の考え方として、私は準備力とともに「ゆかし」という古語を参考にしています。「見たい」「聞きたい」「知りたい」という好奇心を発露している言葉で、要は「あなたのことを知りたい」ということです。

質問するときに素直な好奇心があれば、相手も心を開きやすい。「私はあなたのことを本当に知りたい」と思っているから、ここにいるというスタンスですね。

稲垣 私が自分の過去の失敗を教訓に肝に銘じているのは、相手をリスペクトしすぎないというスタンスです。例えば、国際オリンピック委員会(IOC)の会長などの大物に単独インタビューするとき、ついつい優等生に見られたいと思い、準備した知識を自分が披瀝するのが中心になってしまったりしがちです。相手をリスペクトして、ヘタに上下関係をつくってしまう。そうすると相手に飲まれてしまい、新しい発見がないことがあります。

藤野 大物こそ嫌な質問を必ず入れないと本音は聞けないものですね。とくに相手が想定問答集をもっている場合は、想定外の切り返しが重要になります。

そもそも質問の8~9割くらいは平凡なインタビュアーも優秀なインタビュアーも同じだと思うんです。残り1~2割の深掘りの質問をすることこそ、ユニークな情報を取れるかどうかの分かれ道になるのです。


稲垣康介
朝日新聞編集委員。1968年生まれ。朝日新聞記者、東京、大阪のスポーツ部、欧州総局(ロンドン)、アテネ駐在などを経て現職。五輪取材が長く、夏季はアテネから、北京、ロンドン、冬季は長野、バンクーバー、ソチ大会を担当。2002年日韓、06年ドイツのサッカーW杯を取材したほか、近年はテニス取材にも熱を入れている。

大事な質問は最後にする
あえて漠然とした質問をすることも必要

稲垣 いかに想定された質問から内容を発展させるかが重要で、本当に聞きたい嫌な質問は、あえてボカして聞くときもあります。基本として一番聞きたいことが嫌な質問だとしても、最初からぶつけるのは避けた方がいいでしょう。まずは相手に心を開いてもらうために、インタビュアーである自分を知ってもらう。雑談力が重要になってくるのです。たとえば、自分の恥ずかしい体験、失敗談を話すのも一つです。文章でもそうですが、読者は筆者の自慢話には、あまり共感してくれません。ユーモアやウィットに富んだ人間性を伝えられるかが、ポイントだと思います。

藤野 「場を温める」というのが、雑談力です。私はよく「刑事コロンボ」のやり方を参考にするのですが、彼は最後に大事な質問をしますよね。「あっ、そういえば」「うちのかみさんがね」と相手の気が緩んでいるときに質問する。

私はインタビューの際にノートにとるのですが、本当にしたい質問のときはノートを閉じることがある。またはICレコーダーを止め、もう一回雑談をしてから質問する。時には帰り際、エレベータが閉まる直前に質問をするときもあります。

なぜそれほどまでに本音を聞き出したいのか。要するにコモディディ化した情報には価値がないんですね。誰もが知っていることには価値はない。株式投資の世界では、まだコモディディ化していない情報にリターンの源泉があるからです。

だからこそ、あえて漠然とした質問をするときがあります。例えば「社長の夢って何ですか」と。これって結構嫌な質問なんです(笑)。会社のことなのか、それとも個人の夢を聞いているのか、よくわからない。

稲垣 抽象的な問いかけで、いかようにも答えられる分、自分が仕事しか考えていない人間なのか、または全然違うプライベートで目指す夢があるのか、相手にわかってしまう。怖いですね。私も聞かれたら、一瞬戸惑うでしょうね(笑)。

藤野 その答えに、その人の性格や考え方が出てくるのです。正解があるわけではありません。私はその質問でどんな情報が欲しいのかというと、その人がどんな美学の持ち主で、価値判断にどんなプライオリティを持っているかなのです。

経営者もいろいろで、従業員を切るくらいなら、会社の業績が悪化してもいいという社長もいる。その一方で、業績を上げることだけが重要な社長にしてみれば、従業員を切ることにそれほど痛みはない。情に篤いかどうか、利益が重要なのかどうか、どちらをプライオリティとして判断するのか、夢の質問で意外とわかるのです。

その質問をすることで、その社長はある局面でどのような意思決定をするのか、シミュレーションすることができるのです。


未来の質問をするときは
過去の話をたくさん聞く

稲垣 藤野さんは経営者に質問するとき、どういった準備をしているのでしょうか。

藤野 3年前はもうネットで十分で、新聞は読まなくていいと言っていたんです。でも、今は違う。ネットもいいけど、まずは新聞を読もう(笑)。

なぜかというと、私は“リズムを破る"という言い方をするのですが、ほかの投資家と同じリズムでいたら、平凡なリターンしか出ないんです。ほかの投資家が行動している時間と違う時間で行動することが重要なんですね。

同じように売り買いし、同じように評価したら、差は絶対出ません。切り口を変えるには、時間軸を短くするか長くするか、“リズムを変える"ことがすごく重要なのです。

だから、私は新聞を読むことで、毎日一定の時間を使って、昨日あった出来事をレビューして、網羅的に考えながら、常に未来を考えていく時間軸に戻した。

ネットを使うのは当然ですが、さらに私は紙の時間軸でモニターしながら考える。ネットだけで細切れの時間で細切れの情報をとるのと、ひとつにまとまって思考して考えてみるというのは、考えるクオリティの差、アウトプットの差となって出てくると思います。

稲垣 今ならネットの海を探せば相当な情報があって、原稿もそこにあるデータなどを土台にすれば、なんとなく形はついてしまう。欧米の新聞は一つの原稿が長いことが多いですが、日本の新聞の場合、項目が多いため、15~20行ぐらいの記事もけっこうあるからです。では、何で差がつくかと言えば、スポーツ記者としては、どれだけ地道にアスリートの普段の姿に接しているのか。そのアスリートを原石のときから、いかに見守ってきたのか。それが将来のリターンになってきます。

ありがたいことに選手によっては、大勢の記者がいる共同取材では、ありきたりのことを言って、長く接してきた記者には、あとから大事なコメントを残してくれるような選手もいます。

ただ、それでもアスリートの本音をつかめないときがある。だからこそ、準備はしますが、逆に素人っぽく質問することもあります。あえて馬鹿になる。自分がときどき素人になって聞くのも大事だと思います。知ったかぶりは禁物。選手に見透かされます。

藤野 私も質問するときに、「まだ幼稚園程度の知識しかありませんから、今日は幼稚園卒園のところを目指したいと思います」と聞きながら、段階を踏んで質問を重ねていくことがあります。

よくやるのは過去の話をたくさんしてもらうことです。未来の質問をするときこそ、過去の話をたくさん聞くことが大事です。


情報をたくさんあげれば
相手も情報をくれる

稲垣 本当にそうですね。私も未来の質問をするとき、アスリートの過去のデータをとにかく調べて、具体的に「あの時の記事では、こんなことを話していた。その言葉の裏にあるのはどんな気持ちだったのか?」と聞く。過去は自分の経験だから、相手も話しやすい。しかも、そのほうが話が深みを増してくる。

そこから、さらに深掘りして「なぜそんな気持ちだったんですか」と聞くと、また答えてくれる。それを何回も繰り返していくと、そこから自分の聞きたかった情報がようやく出てくるのです。過去から辿っていって、自分の聞きたい鉱脈を探していく。質問力として一番気をつけているのは、それかもしれません。

藤野 相手は意外と過去のことを忘れているものです。むしろこちらがアシストしながら、記憶を引き出すような話をして、興味深く聞く姿勢でいると、相手は話すべきなんだ、話すシチュエーションなんだと思ってくるんです。

要するに、過去の話と未来の話はつながっていて、過去の話をつないでいくと、未来の話が出てくるのですね。

稲垣 過去の話を聞いていくうちに、アスリート自身が気づかなかった思いが蘇ってくることがあります。インタビューの醍醐味は、アスリート自身がインタビューの中で自分を発見し、スイッチオンするときにある。そこからはあふれるように面白い話が出てくることにあると思います。

その人のデータをすべて洗い出して、推理ゲームのようなかたちで選手が持つ潜在的な力、言いかえれば将来性を探っていけば、どんどん話も盛り上がっていくのです。

藤野 自分の知っている情報を惜しみなくあげるつもりで質問することも大事ですね。インタビューで重要なことは相手に情報をあげることなんです。情報をあげればあげるほど、相手は情報をくれる。それもギブ・アンド・テイクというかたちではなくて、サービス精神旺盛に「あなたのために僕の知っていることを全部差し出しますよ」という姿勢でいると、知らないうちに相手も情報を出してくれる。

そうやって自分のポケットから情報を全部あげると、帰るときには、自分の情報がさらに増えている。情報の利点は無限コピーができるということなんですね。情報をどんどんあげると、人が集まってくる。情報を取ろうとする人たちが集まってくると、さらに自分の情報は増えるんです。


質問力を高めるのは
見た目と異性とのデート気分

稲垣 質問するときは見た目も重要です。東京五輪の招致プレゼンでコンサルタントを担当したマーティン・ニューマンさんに取材したとき、人間の印象というのは、「V」の頭文字で始まる三つの要素だと言っていました。「VISUAL(見た目)」と「VOCAL(声)」と「VERBAL(言葉)」。中でも一番大切なのは、笑顔などの表情、つまり見た目だと力説していました。

見た目で心をつかむためには、相手の目を見て「俺は信用できる明るい人間なんだ」という印象をビジュアルとしての表現やしぐさで出すことが大事です。

藤野 インタビューは異性とのデートと同じなんです。綿密な準備と第一印象が大事。良い服を着るのではなく、清潔で信頼感があるように思われること、尊敬の念をもって相手に接すること、できれば、あなたのことをもっと知りたい、と恋人を見るような目で見ること。そして、卑屈にならない、媚びない、高邁にならない。

最初はイエス、ノーで答えられるような質問をしながら、ボディランゲージを使う。それに受け答えではリピートも必要です。リピートは男性より女性のほうがうまい(笑)。「疲れた」と言ったら「疲れたのね」と受ける。それが共感している証拠になりますから。

稲垣 アスリートが負けた試合で「よかったよ、本当は勝てた試合だったよ」と単純に慰めるだけの記者は信用されない。ダメなときは、ここがダメだったとはっきり言う。「ここが悪いと思ったけれど、なぜそうだったのか」と自分の評価をきちんと言ってあげないと次の関係性にはつながらない。もちろん、自分はアスリートではありませんから、あくまで記者席から見た前提で、正直に話す。

そうすれば、「この人は結果が出ないとき、成績が伸び悩んでいるときでも、自分のことを考えてくれる」と選手に信頼してもらえる。話しているうちに、選手自身も気がつかなかった敗因がわかれば、それが有益な情報にもなる。仲良し応援団ではなく、きちんとダメなものはダメだと言うことも大事なのです。

(撮影:今祥雄)