伊藤雅俊・味の素社長、現地食習慣に入り込む 「浸透に10年はかかります」

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──世界での競合といえば、スイスのネスレや英蘭ユニリーバなどですが、こうした企業と競争するうえで独自性をどう打ち出すのですか。

彼らとは違う土俵で戦っていこうと考えています。食品分野では競合しますが、われわれは競争のコアを違う分野で構築できると考えています。どういうことかというと、調味料にはそれを構成する素材があるわけですが、当社はこうした新たな素材を独自開発して、それをベースとした加工食品事業を展開できる。

「おいしさ」を構成する要素の一つは味覚ですが、それ以外にも香りや食感などおいしさを左右する要素はたくさんある。食感で言えば、ヨーグルトに硬さが出るような素材を加工用として製造・販売しています。味の素は家庭用食品のイメージが強いですが、それ以上の市場が加工用食品にはある。食品事業では競合企業であっても、加工用事業ではそうした企業の多くが顧客です。

──世界の競合企業と戦うには事業にスピード感が重要なのでは。

「味の素」一つとっても、その国に浸透させるのに10年はかかります。現地の食習慣に合ったものを作るにはスピード感じゃできない。コーラやチョコレートのように、スーパーマーケットにどんと並べて文化を売るような商売とは違います。

われわれは現地の市場に行き、そこでミニ料理教室を開くというようなことをやって、根を生やしてきました。どうしてそれをやるかというと、現地の人の生活や食べ方、料理の仕方などへ入り込んでいかないといけないからです。たとえば、調味料に描いてあるブタの絵も、その国の「かわいらしさ」を考えて決めています。われわれのやり方はまったく違うのです。

──事業拡大するにはM&Aという手法もありますが……。

国内で今後大きく伸ばすというのは難しいので、人口拡大の見込める海外を一段と大きくしないといけない。国内で開発した技術や商品を海外に出していくことになりますが、そのスピードを上げるために、M&Aというのも国内外にかかわらず、積極的に考えていきます。

ある分野で特別な技術を持つなど技術力も大切ですが、われわれが持つ営業チャネルを太くするために、いかによい商品を載っけられるかが重要な要素となるでしょう。

(聞き手:鈴木雅幸、倉沢美左、麻田真衣 撮影:尾形文繁)

いとう・まさとし●慶應義塾大学卒。1971年味の素入社。食品部長などを経て、1999年取締役。2005年常務執行役員、2008年食品カンパニープレジデント、2009年3月から現職。趣味の料理の腕前は玄人はだし。和洋中のレパートリーも豊富。

鈴木 雅幸 東洋経済 記者

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すずき まさゆき / Masayuki Suzuki
2001年東洋経済新報社入社。2005年『週刊東洋経済』副編集長を経て、2008年7月~2010年9月、2012年4月~9月に同誌編集長を務めた。2012年10月証券部長、2013年10月メディア編集部長、2014年10月会社四季報編集部長。2015年10月デジタルメディア局東洋経済オンライン編集部長(編集局次長兼務)。2016年10月編集局長。2019年1月会社四季報センター長、2020年10月から報道センター長。
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