M&A思考が日本を強くする JAPAN AS NO.1をもう一度

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2017年、日本で人口減少が進む中、業界の大再編時代が到来すると警鐘を鳴らして反響を得た『業界メガ再編で変わる10年後の日本』。今回、その続編として『M&A思考が日本を強くする JAPAN AS NO.1をもう一度』(東洋経済新報社)が刊行される。本書では引き続き人口減少が進む中、国内でシェアを取り合う「競争」よりも、互いの強みを生かした「協調」こそが日本の国力や業界の力を高めると主張する。そのとき役立つ考え方が「M&A思考」だという。日本がもう一度、ナンバーワンと評価されるための方策とは何か。著者である日本M&Aセンター上席執行役員 業種特化事業部事業部長 兼 業界再編部長の渡部恒郎氏に話を聞いた。

1980年代前半、日本こそが世界のナンバーワンという言説が大きな支持を得た。渡部氏は当時の議論について、次のような感想を持ったという。

「日本の人口が増加していく中で、官僚制度、初等教育のレベルの高さ、商社や銀行などが情報収集から商流づくりまでうまく機能したことが成功要因に挙げられていました。しかし、今はどうか。世界の企業の時価総額トップ100ランキングから日本企業はどんどんいなくなり、国民の所得は減少。少子化を迎え、国のフェーズが成熟期から衰退期に移ってしまった。今のままでは日本の将来は非常に危ういといえるでしょう」

多くの企業は日本の中だけで戦っている

『M&A思考が日本を強くする JAPAN AS NO.1をもう一度』(東洋経済新報社)(画像をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします)

しかし、そんな日本だが、世界でトップに立てる分野はまだまだたくさんあるという。それを実現するためにもインフラや資本、コンテンツなど当時強かったもの、よかったものを人口減少が進む今の日本に置き換えてどのように活用できるのか。そこを考えることが重要になってくると渡部氏は語る。

「例えば、初等教育では人口増加の時代には画一的な教育が求められましたが、人口減少の時代となった今では、質の高い教育が求められるようになっています。今、大人になって子ども時代を振り返ってみても、私たちは学校で、それぞれの分野のプロにちゃんと教えてもらったことが少なかったように思います。走り方一つとってもそうです。学校で正しい走り方を教えてもらった人はほとんどいません。今なら、陸上競技の経験があり科学的な裏付けを学んだ人たちが教えたほうがいいと考えます」

少子化についても、その問題点を次のように挙げる。

「今、女性は第1子を30代で出産するケースが多いのですが、今は早く出産することがデメリットになっているから出産時の年齢も高くなってしまっているのです。ならば、より早く安心して出産できる環境を整えれば、出生率はもっと上がっていくのではないでしょうか。そのためにも子育てが終わるまでの女性の働き方の多様化やシッターなど子育てのバックアップをしたほうがいいのです」

そう、私たちはもっと考えるべきなのだ。日本のレストランはグルメランキングで世界トップレベルにあるにもかかわらず、いまだに日本からフランスなど海外へ料理修業に行くことばかり称賛されて、その先がないのはなぜなのか。また、ゲーム大国であるにもかかわらず、なぜ韓国やアメリカに対してeスポーツ分野で後塵を拝しているのか。

「日本という国の力が衰退していく中、将来は日本の労働人口は半減すると予測されています。魅力的な企業は少なくなり、廃業していく企業も多くなっています。しかし、それでも多くの企業は日本の中だけで戦っているという状況なのです」(渡部氏)

日本M&Aセンター
上席執行役員 
業種特化事業部事業部長
兼 業界再編部長
渡部恒郎氏

そんな状況から日本が抜け出すために必要なのが「協調」を求める「M&A思考」だ。

「そもそも日本では本来、人手不足は起こりえないことなのです。需要が減れば、お店の数も減るわけで、客と労働者のバランスは本来、同じであるはず。問題は働きたいと思える会社が少ないことです。今も特定の企業には人が殺到している状態であり、そうでない企業とのアンバランスな状態が続いているのです」

例えば、運送業界は今、急激に人手不足の状態に陥っているが、それは法改正で会社の数が大幅に増えたことが要因となっているという。規制緩和によって既存企業から独立開業しやすくなり、運送業者が増えることになったのだ。

「経営的な思考を持たない人が経営者になっても会社としては発展しません。需要が縮小していく中で、業界の中で枝分かれして過酷な競争を繰り返している。今必要なことは、もっと日本という国全体を見て、互いに協調して活路を見いだすことなのです」

過去からの延長線上に未来はない

「M&A思考」が必要なのは、弁護士や会計士、医師、スポーツ選手などのプロフェッショナルたちについても例外ではないと渡部氏は言う。

「今、弁護士や会計士、医師の方が企業経営者となって上場を成し遂げた事例が生まれており、スポーツ選手についてもこれから経営者になる例が増えていくはずです。専門的な深い知識やスキルを持っているプロフェッショナルの方が経営センスを持つようになったのです。しかし、もしそうではない場合、プロの経営者にマネジメントを任せるなど広く協調していけば、もっと活躍できる場を得ることができるのです」

そのためにも、これからは多くの人が「M&A思考」を持つべきだと渡部氏は強調する。

「私はこれまで仕事で多くの中小企業を支援してきましたが、まだ会社は自分の持ち物という意識を持つオーナー経営者がいることも事実です。日本が人口減少している今、自分のファミリーのことだけ考えていても生き残れません。国や業界全体のことを考えたうえで経営をすべきなのです。それには会社を透明性があるパブリックなものにしなければならない。そうすれば人は自然と集まってきますし、世界も狙えるのです。そのためにも協調を求める『M&A思考』を持つことが重要になってくるのです」

これから日本の状況を変えていくには、固定観念に縛られず、新たな視点から物事を考えることが必要だ。これからどうやって私たちはサバイバルすればいいのか。そう考える人たちにとって『M&A思考が日本を強くする』は、多くのヒントを与えてくれるだろう。

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