「花粉症に苦しめられる日本人」が知るべき基本 「エビデンス不足」の中でどう対処すべきか

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予防方法についてはどうでしょうか。

先ほどの原理を振り返ると、原因となる花粉が少しでも身体に入り込まないような工夫が有効になりそうです。

例えば、マスクの装着は予防に有効と考えられています。マスクを装着した方の鼻や目の中で測定した花粉の数は、マスクを装着していない方に比べて明らかに減っていたとする研究がその根拠です。しかし、これは症状の差を評価した研究ではなく、良質なエビデンスとは言えないことにも注意が必要です。また、口だけを覆う形で装着する方をよく拝見しますが、鼻までしっかり覆わないと、期待される効果は大きく落ちるでしょう。

同様の根拠から、マスクのほか、メガネにも同様の効果が期待でき、コンタクトレンズの方は花粉の時期だけ眼鏡にかえるというのも試す価値のある手段と言えます。

ヨーグルトは予防に有効か?

一方、よく広告などで見かけるヨーグルトや乳酸菌はどうでしょうか。過去に行われた調査によると、花粉症のいわゆる「民間療法」としては、甜茶(てんちゃ)やヨーグルトの使用が多いようです。

しかし残念ながら、それらの科学的評価はほとんど行われておらず、根拠はないと言わざるをえません。ヨーグルトが本当に花粉症に有効なのかはまだ誰にもわからないということです。

「ヨーグルトの乳酸菌がアレルギーを抑える」といった説明では不十分で、それを証明するためには、ヨーグルトを食べた人と偽のヨーグルトを食べた人とで花粉症の症状がどうなるかを比べた比較試験が必要です。

確かに、体への害がなければ摂取自体に問題はないのかもしれません。しかし、費用もかかることなので、友人やご近所の方に勧める前には少し立ち止まっていただく必要があると思います。あなたの経験が人にも有効であるという根拠はないのです。

また、「花粉症に有効」とうたった薬草やインターネット通販などで販売される漢方薬などには健康障害も報告されていますので、注意が必要です。

最後にご理解いただきたいのは、私がここでご紹介してきた「エビデンス」の使い方は、決してあなたの「秘伝の技」を否定するものではありません。もしかすると、その「技」はあなたにとって、本当に有効な方法なのかもしれません。エビデンスは決してそれを否定することはできません。

その「技」はほかの人にも通用するのか、人に勧めてもよいものなのか。エビデンスはそんな疑問への答えを導く助けになるものです。

なんとなく続けていたけれど、無駄だったのだろうか。友達に勧めてしまったけれど、正しかったのだろうか。この記事を、そんな立ち止まり、振り返りのきっかけにしていただければと思います。

山田 悠史 米国老年医学・内科専門医

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やまだ ゆうじ / Yuji Yamada

慶應義塾大学医学部を卒業後、日本全国の総合診療科で勤務。現在は、米国ニューヨークのマウントサイナイ医科大学老年医学科で高齢者診療に従事する。フジテレビ『FNN Live News α』のコメンテーター、 WEBマガジン『ミモレ』やニュースメディア『NewsPicks』の連載の他、コロナワクチンの正しい知識の普及を行う一般社団法人コロワくんサポーターズの代表理事、カンボジアではNPO法人APSARAの常務理事として活動。著書に『最高の老後 「死ぬまで元気」を実現する5つのM』(講談社刊)、『健康の大疑問』(マガジンハウス新書)がある。Twitter:@YujiY0402

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