仕事のできない人は「アート」の価値を知らない 正解、利便性、失敗の持つ意味が変わった

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さて、ここからは「アート的な思考がビジネスの世界にも求められる」2つ目の理由について考えてみましょう。

結論から言えば「利便性」に価値が認められなくなったからです。現在の世の中では「役に立つこと」の価値が急速にデフレする一方で、「意味があること」の価値がインフレしています。昭和の中期から後期にかけて、高い価値を認められていた「役に立つ=利便性」の価値が大きく減損する一方で、「意味がある=情緒やロマン」の価値が大きく求められるようになっている、というのが今の状況です。

これはなかなかに認めがたい潮流かもしれません。というのも、先述したとおり人間のマインドはとても保守的で、ひとたび形成された価値認識というのはなかなか変えられないからです。私たちの多くはいまだに「便利なこと」には価値があると考えているので、「不便なコト・モノ」のほうが価値があると言われてもなかなか認めようとしません。

思考実験で考えてみましょう。例えばここに「便利なモノ」と「不便なモノ」があるとしましょう。ここで「便利なモノ」の価格が5万円だとした場合、皆さんは「不便なモノ」にはいくらの価格をつけるでしょうか。1万円? あるいは3万円? 細かな金額ではいろんな回答が考えられますが、おそらくほとんどの人は「便利なモノよりも安い価格」をつけるはずです。しかし本当にそれでいいのでしょうか?

不便なモノほど高額で売買されている

現在の世の中をきちんと観察してみれば、多くの市場において「便利なモノほど安く買い叩かれている一方で、不便なモノほど高額で売買されている」ことに気づくはずです。

例えば新築の家を建てる人の間で憧れとなっている薪ストーブや暖炉を考えてみればわかりやすい。現在の日本はほぼ熱帯のような気候になっているので新築の家には必ずエアコンが完備されています。ボタン1つで部屋を快適な温度に暖めたり冷やしたりしてくれる「便利なモノ」がすでに完備されているにもかかわらず、わざわざ不便な薪ストーブや暖炉を導入したがる人が多いのです。

そして、その価格は、便利なエアコンが数万円で購入できる一方で、不便な薪ストーブや暖炉は設置費用まで含めれば数十万円から数百万円かかるわけです。ここに「便利なモノほど安く、不便なモノほど高い」状態が成立しています。

あるいは音楽鑑賞機材を考えてみましょう。今日ではスマートフォンをブルートゥース対応のコンポにつなげれば十分に納得のいく音質で音楽を楽しむことができます。こういった機材は極めて便利にできているわけですが、ではその市場において最も高額な機器かというとまったくそうではないわけです。

オーディオマニアが大枚をはたいて購入したがるのは真空管のアンプにターンテーブルとアンティークのスピーカーを組み合わせたセットで、これらは極めて不便なモノです。ここでも「便利なモノほど安くて利益が少ない」一方で「不便なモノほど高額で利幅も大きい」という現象が成立していますね。

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