音楽業界の敵か味方か、スポティファイ上陸へ 世界を席巻する音楽サービスが日本でも開始

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音楽会社にとって複雑なのは、会員数を伸ばしているのが携帯電話会社の展開するサービスという点だ(表)。利用者がスマホを購入する際、加入を勧められるオプション契約の一つとなっていることが多い。そのせいか、「曲の再生回数が少なく、明らかに使われていない。会員数の増加に合わせて音楽を聴く人が増えているとはいえず、中長期で考えると喜べない」(大手音楽会社幹部)。

他方、「レコチョクベスト」やソニーのMUなど、携帯電話会社と結び付いていないサービスは、会員数で大きく見劣りする。業界内では、知名度の低さや料金設定の高さがその原因とされている。

さらに、利用者が聴きたい曲が少ないという面も大きい。その象徴が邦楽の新譜だ。ほとんどの音楽会社がCDやDLの販売から3カ月~1年遅れで定額配信に曲を提供する。アーティストや所属事務所などの意向で定額配信に曲が提供されないこともある。

日本の音楽市場3121億円のうち、CDなどの比率が全体の8割超を占める。各音楽会社の幹部は一様に「デジタル部門の担当者は定額配信にも積極的に曲を提供したいが、会社全体の判断になると、主力のCDなどの販売を落としたくないので思い切ってやれない」と話す。

配信サービスの再編、淘汰の動きもある。昨年末、NTTドコモはレコチョクの株式の3割超を握る筆頭株主になった。ソーシャルゲーム大手、DeNAは昨年始めた「グルービー」の主要なサービスを、3月25日に終了する。

無料配信に抵抗感

国内勢が聴き放題サービスで有力な手を打てない中、スポティファイは普及するのか。最大の壁は、日本の音楽市場では8割超を占める邦楽のラインナップ充実だ。音楽会社との交渉では広告と課金を組み合わせたビジネスモデルに対して理解を得る必要がある。だが、「スポティファイは広告収入もわれわれに分配すると説明するが、無料で曲を全部流すことには抵抗感が強い」(大手音楽会社幹部)。

日本で展開されている配信サービスは有料が基本。音楽会社には、無料で聴けるようになれば、CDやDLの販売の落ち込みに拍車がかかるという懸念がある。中堅音楽会社の幹部は「曲の提供に向けた交渉には応じるが、スポティファイだけを優遇するつもりはない」と言う。

海外でスポティファイが成功しているのは、市場を寡占するソニー・ミュージック、米ユニバーサルミュージック、米ワーナーミュージックという3大メジャーと楽曲提供契約を結んでいることが大きい。これらはスポティファイの株主でもある。

ユニバーサルやワーナーが日本でも積極的に曲を提供する、とうわさされるが、日本での2社のシェアは合計で2割弱。その影響力は大きいとはいえない。

「日本は世界2位の市場。そこで普及させるための強いチームも用意した」(グレー日本法人代表)。警戒心の強い日本の音楽会社に対し、スポティファイは魅力的な条件を提示できるか。日本攻略の本気度が試されている。

(撮影:Getty Images =週刊東洋経済2014年3月22日号 核心リポート01)

中島 順一郎 東洋経済 記者

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なかしま じゅんいちろう / Junichiro Nakashima

1981年鹿児島県生まれ。2005年、早稲田大学政治経済学部経済学科を卒業後、東洋経済新報社入社。ガラス・セメント、エレクトロニクス、放送などの業界を担当。『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部、ニュース編集部などを経て、2020年10月より『東洋経済オンライン』編集部に所属

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