なぜ東芝の重要情報がライバルに漏れたのか 半導体で提携先の米サンディスク元社員が逮捕

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昨年、社長に就任した田中久雄氏。「NANDフラッシュメモリは継続的に大きな投資をする必要がある」と位置づけている(撮影:吉野純治)

厳しい競争が繰り広げられる中、東芝はNANDフラッシュメモリでは世界シェア約3割を握り、サムスンに次ぐ2位につけている。今や東芝グループにとってメモリは圧倒的な稼ぎ頭であり、電力やテレビ・パソコン事業の苦戦をフォローする心強い存在だ。

業績の浮き沈みが激しいメモリ事業で東芝が躍進できたのは、技術開発力と積極的な設備投資の両輪でライバルをリードした攻めの経営にほかならない。そこには、米サンディスクとの共同出資という形をとり、一定のリスク分散ができていた面も大きい。

罰則強化には副作用も

今回の事件を教訓に、政府は不正競争防止法の罰則強化に動く可能性もある。これは両刃の剣となりかねない。コンプライアンスの強化で技術者に対するデータの取り扱いを厳しくすれば、ほかのメーカーとの技術や意見交流のみならず、社内の別部門との意思疎通にさえ不自由が生じかねない。自由度を減らすことで、かえって企業の競争力を削いでしまう可能性もある。

「かつて日本が世界の半導体業界をリードしていた時は、技術革新が絶えず行われていた。過去のデータが漏洩しても、すぐに陳腐化するため被害は小さかった」(電機メーカー元幹部)。しかし、日本の電機業界の弱体化が顕著になっている中、半導体ビッグスリーをしのぐ巨費を投じて研究開発を推し進め、業界の先頭を走り続けられる余力はない。

結局、ある程度の技術流出リスクを覚悟してライバルと手を組まなければ、開発スピードも上がらないのが現実だろう。大手に少しでも差をつけられないようにするには、過度な守りに入るよりも、積極的に外部の情報を集めることにエネルギーを注ぐほうが得策だ。

かつて、多くの日本人技術者を採用したサムスンは、世界中のITトレンドが集中するシリコンバレーへとその目線を移している。同社の半導体部門は米国サンノゼに巨大な新社屋を建設中で、現地で大量の研究者や営業員を採用する計画だ。

数少ない独自技術を守りつつ、提携を活用して世界的メーカーといかに戦っていくのか。東芝のデータ漏洩事件は決して他人事ではなく、世界の競合としのぎを削る多くの日本企業に難題を突き付けたといえる。

前田 佳子 東洋経済 記者

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まえだ よしこ / Yoshiko Maeda

会社四季報センター記者

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