「若者は安倍政権支持」の幻想と現実 距離をとり始めたロスジェネ

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93年に設立され、社会起業家を支援してきたNPO法人「ETIC.」の代表理事、宮城治男さん(41)は、こう話す。

「政治や行政が解決できない課題に実行力をもってアプローチできているのが、私たち社会起業家。政治家とは対等のパートナーという感覚で、実際、彼らのほうからアクセスがある」

特定政党への熱狂的な支持はありえず、同世代の政治家や官僚で思いや志が同じであれば、党派を問わず一緒に課題にあたる。一方で投票という行為が、課題解決の方法として「相対的に合理的ではない」と思える世代なのだと、宮城さんは言う。

同世代に投票を

だが同時に、ロスジェネが政治参加に消極的になってきたことへの危機感が、同世代のなかで改めて高まってきてもいる。

公共経済学が専門で、世代間格差の問題などに取り組む法政大学准教授の小黒一正さん(40)は、財政の観点から危機感を募らせる。

「安倍首相は憲法改正にばかり関心が向かい、財政問題には何も手を打とうとしていない。このままではロスジェネは、たいへんなツケを払わないといけなくなる。もはや破綻しないための研究ではなく、破綻処理の方法を研究したほうがいい状態」

現在の社会保障制度などを存続させる前提で、国際的な公約である20年度時点のプライマリーバランス黒字化を達成するためには、消費税10%ではとても足りない。25年には団塊の世代が皆75歳を超え、財政収支はさらに悪化する。
「本来なら私たち世代が投票に足を運び、財政問題に取り組んでくれる同世代の政治家を当選させなければ」(小黒さん)

元千葉県市川市議で、「ワカモノ・マニフェスト策定委員会」メンバーの高橋亮平さん(37)は、安倍政権が構造改革に踏み込んでいけるかが、ロスジェネにとって重要だと言う。

「既得権益層の声に押し切られれば、最悪の事態に陥る。成長戦略や社会保障制度の見直しを実行し、財政健全化を進めていかなければ、負担は僕ら世代やその子どもに押し付けられる。むしろいままで以上に、政治に関心を持たなければいけない」

ヤフーの川邊さんは、政治参加への意識が薄いロスジェネが、決して社会に対して問題意識が低いわけではないことに期待する。今後、ロスジェネが歩む道は二つ。ひとつは自分たちの相互作用で問題を解決する流れがより強くなる道。そして、

「大きな反作用が出てくる可能性もある。日本をめぐる状況がより悪くなり、一方でネットの力がより強くなるタイミングで、一気に政治への関心が高まるかもしれません」

(AERA編集部:太田匡彦、撮影:関口達朗)

※AERA 2014年3月24日号
 

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