動き出す「高齢者マネー」

贈与非課税措置から1年

3月14日、祖父母が孫に教育資金を一括贈与する際に一部が非課税となる制度が導入されてから、4月で1年を迎える。家計に余裕ができた子育て世代が、浮いた資金を消費や投資に振り向けようとする動きも出てきた。写真は都内で昨年12月撮影(2014年 ロイター/Yuya Shino)

[東京 14日 ロイター] -祖父母が孫に教育資金を一括贈与する際に一部が非課税となる制度が導入されてから、4月で1年を迎える。1600兆円に上る個人金融資産のうち約6割を占める「高齢者マネー」が孫への贈与という形で動き出し、家計に余裕ができた子育て世代が、浮いた資金を消費や投資に振り向けようとする動きも出てきた。

東京都内に住む高岡ヒデ子さん(81)は、この制度が始まった直後の昨年5月から利用している。「海外留学を志している孫の支援をしてやりたかった。贈与税がかからないのはありがたい」と語る高岡さんは、信託銀行を通して約500万円を孫に贈与している。

仮にこの制度を利用せずに500万円を一括贈与した場合、新たに53万円が課税される計算だ。

教育資金の贈与税非課税制度は、祖父母が孫に教育資金を一括贈与する際に、最大で1500万円までが非課税となる仕組み。金融機関に開いた孫名義の口座に祖父母が資金を拠出し、孫やその父母が引き出せるようになっているが、利用できるのは孫が30歳になるまで。それ以降、口座に資金が残っていた場合は贈与税が課せられる。

また、教育費の定義は文部科学省が定めており、例えば海外留学なら、授業料は対象とされるが渡航費や滞在費の支払いのために引き出すことはできない。

メリットは贈与税が非課税になるだけではない。資産移転によって、子育て世代に経済的な余裕が生まれる点も大きい。高岡さんの娘の原栄美子さん(57)は、親が教育資金を肩代わりしてくれるおかげで家計が助かったと話す。「母からの贈与がなければ、子どもの留学費用を工面するために夫の退職金を切り崩さなければならないところだった。浮いたお金は家のリフォーム代にでも充てたい」と声を弾ませた。

「浮いたお金」は消費だけではなく、投資にも向けられる可能性がある。原さんは、以前NISA(少額投資非課税制度)口座を開設したものの、まだ取引は始めていなかった。しかし、親からの贈与をきっかけに「今後はNISAでの取引も考えたい」と投資にも前向きな姿勢を示すようになった。

市場関係者の間では、マーケットへのプラス効果は限定的との見方が多い。信託協会によると、1月末時点の教育資金贈与信託の状況は、信託銀行など7社で計5万9096件、贈与として金融機関に預けられた金額は累計で3885億円だった。

言い換えれば、子育て世代の懐にこれだけの余裕が生まれたわけだが、松井証券・シニアマーケットアナリストの窪田朋一郎氏は「このうちどの程度が投資に回るかは不透明で、市場への影響は小さいだろう」と予想している。

ただ、個人金融資産1600兆円の過半を占める「高齢者マネー」を動かす意味は大きい。総務省や財務省の試算では、2009年時点での60歳以上の資産保有率は全体の58.7%に上り、この割合は20年前と比べて約2倍になっている。

今のところ、この制度を通じて贈与された資金のうち、実際に口座から引き出されたのは全体の1割にも満たない程度と推計されているが、眠っていたマネーが覚醒したことで、さらなる消費や投資の拡大が今後、見込めるとの期待も上がっている。

三菱UFJ信託銀行のトラストファイナンシャルプランナー、灰谷健司氏は「子育て世代の消費・投資意欲を刺激して、日本経済を活性化させるまでには時間がかかるかもしれない」としながらも、「孫が30歳になるまでに使い切らないと贈与税がかかってしまうため、基本的に今預けられている資金はいずれ必ず利用されるはずだ。行き場を失いかけていた高齢者の資金を動かせた意義は大きいだろう」と語っている。

(梅川崇 編集:伊賀大記)

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