(第23回)いつの間にかのスリム法・その1

山崎光夫

 わたしの普段着はほとんど息子の古着である。
 数年前の話だが、あるとき玄関に大きな透明の袋が置かれていて、中に衣類が詰まっているのが見えた。
 家人にきくと、息子の古着をゴミに出すのだという。透けて見える袋の中の服は使い古しかもしれないが、捨てるのはまだもったいないような気がした。昭和20年代生れで、物を捨てられない。
 リサイクルに出せないかときいたところ、リサイクルの衣料は「新品同様」が原則だという。その基準ではとてもリサイクルには出せない。
 さりとて捨てるには惜しい。古着は綿のズボンやGパン、シャツ、上着だった。海外の土産品も混じっている。
 ふと、
 「おれが使えないだろうか」
と思った。息子とは30歳以上離れている。
 家人は反対である。子どもの着古しを還暦過ぎた男が着るのはみっともない。
 「第一、穿けないでしょう」
と言う。
 「なに、穿けるさ」
とばかりGパンを取り出して、穿いてみた。
--穿ける!
 使えるのである。ウエストもクリアした。ただ裾が長い。わたしだと引きずってしまう。
 足はおれより長いのかとあらためてその差を見せ付けられてしまった。

 かくしてわたしの着るものは息子のお下がりならぬ、“お上り”専門となった。大体自宅で過しているので、そう服装にかまう必要がない。古着で十分である。子どものころ、わたしはずいぶんと兄のお下がりを着たものだが、この歳になって、息子の“お上り”を着るとは思いもよらなかった。
 こんな“お上り生活”を半分照れながら知人に話したところ、
 「それはすごい」
と驚くのである。
 息子の衣料を活用するエコ生活が驚きをもって耳に届いたのかと思ったところ、そうではなくて、
 「息子の洋服が着られるのがすごい」
と感心するのである。
 確かに言われてみればその通りかもしれない。以前--50歳以前のわたしなら息子のGパンは穿けなかったはずである。
--太った人
と息子に思われていたのがわたしだった。
 身長は170センチで、体重68キロ、ウエスト85センチだった。現在は、体重60キロ、ウエスト80センチである。この体型をここ10年ほど維持している。
 なにゆえこのように細くなったのか。わたし自身も気がつかなかった。いつの間にかスリムになっていたのである。
 特別痩せたいと思ったわけではない。いわば自然に痩せたのであるが、スリムになると体は軽くなるし、体調も良くなる。できれば肥満からは脱却したほうがよいと実感する。
 あるとき、生活の基本を見直した。これは健康検診で毎年必ずどこかに赤字がはいったからである。尿酸値、蛋白、血圧など何か異常を指摘された。組織に属していないから病気になったらアウトである。予防しなければならない。漢方の「未病(みびょう)」は用語では知っていたが、これを実生活で実行する必要があると痛感した。
 いつも尿酸値は高目だった。高カロリー料理やプリン体、酒などは大敵である。
 「普通の食品にくらべてビールは500倍悪い」
と医者に注意された。
 そこでビールを控えることにした。大好物でそれこそ毎日、“あびーる”ほどに飲んでいた。ビールは高カロリーで水分量が多い。がぶがぶ飲めば水太りになり体重が増えるのは道理。メインに飲む酒を他の酒類に切り替えた。しかし、好きなビールを止める必要はない。あれダメ、これダメはしたくない。意識して控えつつ楽しんだ。これだけで、体重の2~3キロはダウンする。
山崎光夫(やまざき・みつお)
昭和22年福井市生まれ。
早稲田大学卒業。放送作家、雑誌記者を経て、小説家となる。昭和60年『安楽処方箋』で小説現代新人賞を受賞。特に医学・薬学関係分野に造詣が深く、この領域をテーマに作品を発表している。
主な著書として、『ジェンナーの遺言』『日本アレルギー倶楽部』『精神外科医』『ヒポクラテスの暗号』『菌株(ペニシリン)はよみがえる』『メディカル人事室』『東京検死官 』『逆転検死官』『サムライの国』『風雲の人 小説・大隈重信青春譜』『北里柴三郎 雷と呼ばれた男 』など多数。
エッセイ・ノンフィクションに『元気の達人』『病院が信じられなくなったとき読む本』『赤本の世界 民間療法のバイブル 』『日本の名薬 』『老いてますます楽し 貝原益軒の極意 』ほかがある。平成10年『藪の中の家--芥川自死の謎を解く 』で第17回新田次郎文学賞を受賞。「福井ふるさと大使」も務めている。
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