日本の農業は本当に大丈夫か?

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これから重要になる「食料安全保障」

 世界の人口は2000年の61億人から2050年には93億人に増加すると予想されています。つまりそれだけ食料危機の起こる確率は高まっていくと思われます。特にアジアにおいては、中国がすでに食糧輸入国になっていますし、インドも人口が引き続き増加し続けます。
 実際、中国は食料の確保に躍起になっています。例えば、オーストラリア、ニュージーランドなど食料輸出国とのFTA(自由貿易協定)の交渉を行っていますが、これは「将来的な食料の確保」を目指したもので、「農業を保護するために食料輸出国との交渉ができないわが国」とは全く戦略が異なります。

 わが国は、マレーシア、タイなどとの交渉では農業問題が大きな争点となっています。以前、オーストラリアが非公式にFTA交渉を提案したとき、「農業を理由に」まともな対応をしませんでした。わが国と中国の食料の自由貿易に関する戦略のどちらが正しいかは、近い将来、明確になるでしょう。

 農業政策は、農家や農協のためだけの政策ではありません。私たち国民が飢えないようにする、また、競争力が低い農業が他の貿易型産業の邪魔をしないという観点も含まれてきています。つまり、一般国民も農業政策に無関心ではまずいということです。




どうすれば自給率は上がるのか?

 食料自給率には、色々な計算があります。

 わが国が採用している自給率は、現在の食生活における各食料のカロリー消費割合をベースにしたものです。したがって、自給率がほぼ100%の米の消費が落ちれば、そのまま自給率は落ちることになります。逆に言うと、われわれの食生活を変えることにより、自給率は上昇させることができるのです。例えば、1人1年当たりの米消費量は1962年118キログラムから2000年には半分の62キログラムまで減少しました。もし、一人当たりの米の消費量を5kg増やせば、食料自給率は2%アップします。また、農林水産省の試算では、国民一人当たり米を茶碗1杯/日、国産大豆豆腐を3丁/月、国産小麦うどんを3杯/月、食べるのを増やせば自給率を1%上げることができるのです。

 しかしながら、最大の問題点は、「米だけに重点化し続け、食生活の変化に対応しなかった農業政策」にあります。ちなみに2000年に鳴り物入りで制定された食料・農業・農村基本法に基づく基本計画において、10年以内に食料自給率を45%に上げる目標が示されましたが、6年後の今日も40%のままです。

 みなさん、この状況を見て不安になられませんか?

藤末健三(ふじすえ・けんぞう)
早稲田大学環境総合研究センター客員教授。清華大学(北京)客員教授。参議院議員。1964年生まれ。86年東京工業大学を卒業後、通商産業省(現経済産業省)入省、環境基本法案の検討や産業競争力会議の事務局を担当する。94年にはマサチューセッツ工科大、ハーバード大から修士号取得。99年に霞ヶ関を飛び出し、東京大学講師に。東京大学助教授を経て現職。学術博士。プロボクサーライセンスをもつ2女1男の父。著書に『挑戦!20代起業の必勝ルール 』(河出書房新社)など

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