いきなり!ステーキ、「原点回帰」へ転換の成否 生牡蠣に牛たん、「社長からのお願い」も不発

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2019年まで拡大路線を突っ走ってきたいきなり!ステーキにとって、2020年は原点回帰の年になりそうだ。「新しいことをやるのではなく原点に回帰し、目の前で焼かれる柔らかい肉を安価に食べられるといういきなり!ステーキのいいところを磨く」と、ペッパーフードサービスのIR担当者は語る。

2018年には211店、2019年には112店と大量出店を続けてきたが、2020年は出店に急ブレーキをかける。2018年や2019年初のように年200店出店などの目標は設けない。総店舗数の約3分の2を占める直営店では土地代や家賃をすべてペッパーフードサービスが負担するため、「直営店の出店を抑える」(IR担当者)。一方で、2020年は閉店数をさらに加速すると見られる。とくに、不振の郊外店の閉店の動きが加速しそうだ。

売れ行きが悪い牛たんなどのサイドメニューは今後提供する店舗数を縮小していき、いずれ全店で提供を取りやめる可能性がある。「量り売り」という、いきなり!ステーキの特長が薄れるため、定量カットメニューも今後の動向次第では、継続するかどうかの判断を迫られる場面もありそうだ。

マイスター制度復活で料理の質を確保

並行して商品やサービスの改善に力を注ぐ。これまでは急速な出店に対して、従業員の調理技能や接客サービスの向上が追いついておらず、「チェックがおろそかな部分があった」(IR担当者)。

いきなり!ステーキでは、筆記試験と実技試験により調理人として認定する「マイスター」制度を2015年に開始。肉をカットしたり、焼き上げを担当するのは、この社内資格の保有者のみとしていた。

だが、出店ラッシュが続いたことで、マイスター制度は事実上頓挫。マイスターの資格がなくても調理場に立つ従業員が増えた。その結果、カットや焼き加減の質にばらつきが生まれ、顧客から不満の声が上がっていた。

こうした点を改善するため、マイスター制度を2020年2月をメドに再開する。一瀬社長は「素材を生かす焼き方の技術の習得と指導の強化を主眼に置く」とコメントしている。

また、売り上げ悪化に伴って従業員を減らし、顧客が入店した際のあいさつや席の案内が遅れるケースも散見されるようになった。2020年は閉店する店舗の社員を異動させるなど、従業員を柔軟に配置換えすることで、接客の質を確保する。

手薄になっていた元々のファン層を重視したテコ入れ策を行うものの、都心の店舗閉店が続いており、原点回帰策の成否は不明だ。2019年まで突っ走ってきた拡大路線から、原点回帰による既存店の立て直しへ。いきなり!ステーキは2020年に存続の正念場を迎えることになる。

遠山 綾乃 東洋経済 記者

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とおやま あやの / Ayano Toyama

東京外国語大学フランス語専攻卒。在学中に仏ボルドー政治学院へ留学。精密機器、電子部品、医療機器、コンビニ、外食業界を経て、ベアリングなど機械業界を担当。趣味はミュージカル観劇。

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