安倍政権の高支持率は、バブルか、本物か? トビアス・ハリス氏が語る安倍政権(上)

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――そのトラブルはどの程度ですか?

野党が分裂していることを考えると、安倍首相の支持率がすぐにも落ち込むことはない。党内に誰もライバルがいなければ、支持率が1ケタに落ち込むことはない。しかし、もし今年の経済が前年を下回るようなことになれば、安倍首相の支持率は20~30%に落ち込むこともありえよう。

たとえ支持率は横ばいでも、自民党の中には不満を言い始める指導者がおり、ことごとく安倍首相に従わなくなる可能性がある。すでに自民党内には不平のつぶやきが聞こえる。いったん支持率が下がり始めれば、安倍首相の平穏な時代は終わることになる。

就任した最初の1年は舞台回しが多く、障害物も少ない。安倍首相は昨年夏の参院選で圧勝したので、みんな大目に見ている。だが、手に入れやすい果実はなくなり、これからは難問ばかりが待ち構えている。

――自民党内の不満とはどのようなものですか?

大きな不満のひとつは法人税減税についてだ。安倍首相はダボスの世界経済フォーラムでその実施を断言した。ところが、麻生太郎財務大臣は、「今はその時ではない」と言っている。自民党税調も懐疑的だ。

自民党と民主党の境界線がはっきりしない

――公明党との連立が危ぶまれていますが。続きそうですか?

その疑問は消えそうにない。自民党が公明党のために何かいいことをしたいと思うと、公明党は自民党と連携しようとする。世論を左右するような問題になると、両党の連携は弱まる。集団的自衛の問題で、公明党は与党にとどまるのかどうか決めなければならない。たとえ公明党の支持者に見放されるような大きなリスクがあってもだ。公明党指導部がそれをめぐって分裂するかどうかはわからない。公明党に受け入れられるような集団的自衛権の行使の条件で、妥協が成立するかどうかもはっきりしない。

安倍首相はこのような公明党と対立しそうな問題やほかの問題で、妥協しようというふうには思えない。安倍首相には切迫感がある。目標を達成しようとすれば、そのタイミングは今をおいてないと思っている。それは公明党にとっては厳しいジレンマだ。原則に従うか政府の外に出るか。

――最近、日本の政治を動かしているものは何ですか。安倍首相の見せかけの決断力ですか、それとも野党の弱さですか?

その2つのことが相互に作用している。日本の指導者は以前にもやろうとして、ある程度成功するものでも、それ以上やるには限界があるとわかると、その前にやめてしまう。

以前は党内の反対派が立ち上がって個人の暴走をチェックした。現在、そういう限界はない。市民社会では国会審議によって政府の影響力を限定してきた。野党が不満を唱え、政府に課題を提出する形で限界を設定する。しかし、特定秘密保護法をめぐる審議が示したように、今の野党の力は明らかに弱い。

安倍首相は首相官邸内で権力をうまく集中させているのではなく、いろいろな出来事が重なって障害物が少なくなっている。最近の日本の政治には主要な対立がない。たとえ二大政党制がしっかり機能していたとしても、2つの党を分けている境界線がはっきりしない。

防衛政策をめぐる違いにしても、見かけほど大きくない。靖国問題や、より広範囲な歴史問題は非常に重要な問題だが、それは基本的な分割線ではない。安倍首相は経済のリフレ政策で得点を上げている。この政策に対する明確な代替案はない。もっと緊縮しろとか歳出を抑えろという意見は多い。それなりの説得力はあるが、安倍首相とはっきり対抗するものではない。

アベノミクスをどう押し戻すべきか、誰もわからないようだ。日本の政治における都市と農村の差も目立っていない。民主党は当初、都市の政党と自らみなしていたが、自民党と同じように農村から多く得票している。党内勢力も自民党と同じように分裂している。これは日本の民主主義にとって問題となろう。

※ 続きは3月6日(木)に掲載します

ピーター・エニス 東洋経済 特約記者(在ニューヨーク)

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Peter Ennis

1987年から東洋経済の特約記者として、おもに日米関係、安全保障に関する記事を執筆。現在、ニューズレター「Dispatch Japan」を発行している

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