どうすれば日本の農業は復活するのか?

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農業の再生のために何をすべきか?

 では、農業再生のために何をすべきでしょうか?私は生産性を向上させ、国際競争力を取り戻すために2つのことが重要であると考えます。それは、「価格維持のための補助を農業従事者への直接支払い」にすること、そして、「農業への新規参入者を増やす」ことです。

(1)直接支払い制度への転換

 価格維持制度の場合、補助金は農家ではなく、農作物の流通業者や小売に吸収されます。つまり、補助金が農業従事者に完全には届かなくなるわけです。加えて、もう一つ大事なことは、WTO(世界貿易機関)のルールに基づいて、「農業補助金」は削減されていくということです。

 ただ、WTOの農業補助規制には例外があります。それが、農業の多面的機能に対する助成です。例えば、農業の多面的機能には、・食料安全保障、・環境、・農村社会の安定、・食の安全、・動物の権利等様々なものが含まれます。そして実際に、食糧安全保障や環境を理由とする「農業従事者への直接支払い」は、既にEUやアメリカでも導入されています。わが国もこの「直接支払い制度」を導入すべきだと考えます。

 よく国際競争力というと、「人件費の国際格差」や「農業規模」が原因だと思われますが、実は「政府助成」も重要な要因です。アメリカの小麦・油脂原料のトウモロコシは、生産費の3倍の政府補助金を受けています。補助金があるからこそ、アメリカのトウモロコシは、人件費が安いアジア・アフリカ市場でも競争力を持っているのです。わが国も欧米のように、WTOで許される「農業への政府補助」をどうするかを考える必要があります。

 そこで、具体的に政府負担をどうするかという点が問題になりますが、現在、日本の農業保護は、価格維持政策による農作物の価格上昇による消費者負担が5兆円、税金としての負担が0.5兆円となっています(出典:経済産業研究所山下主席研究員)。ちなみに5兆円は消費税の2%に相当する金額です。また、現在、農業土木に使っている予算は2兆円近くになります。この予算を「直接支払い」にすることにより、余分な価格維持政策を止め、農業の国際競争力を向上させることができると考えられます。

(2)農業への新規参入促進

 そして、次にあるのは新規参入者を増やすことです。今、農業には規制がたくさんあります。農業者でなければ農業はできない、農地は購入できない、などなどです。わが国の農業を活性化するためには、新規参入を増やすとともに、農地所有者に耕作義務を課し、また、農地の転用を規制すべきです。そしてやる気がある農業事業者を増やすことが不可欠です。

 そのためには、株式会社やNPO(非営利組織)の農業への参入を許すことが必要です。農業生産法人については現行の要件(農業関係者の構成員が3/4以上の議決権を持つこと、役員全体の半分以上が150日以上の農業従事者であること等)を緩和します。農業を実践したいというサラリーマンや定年退職者などが増えている状況を踏まえ、市町村が一定の要件を満たす地域を指定し、その地域内における農地取得の下限面積条件(現行:都府県50アール、北海道2ヘクタール)を地域の実情に合わせて緩和することも一案です。トヨタのカンバンシステムなどが農業に応用されたらどれだけ生産性が上がるかを考えてみてください。きっと数倍の生産性向上を達成できるのではないでしょうか。

 これらの「直接支払い」や「株式会社の農業参入」を実現しなければ、数十年後に我々が「飢饉」に遭うような状況も生じかねません。農協など既得権益の反対を押し切って、なんとかしてこの改革をやり遂げる必要があります。

藤末健三(ふじすえ・けんぞう)
早稲田大学環境総合研究センター客員教授。清華大学(北京)客員教授。参議院議員。1964年生まれ。86年東京工業大学を卒業後、通商産業省(現経済産業省)入省、環境基本法案の検討や産業競争力会議の事務局を担当する。94年にはマサチューセッツ工科大、ハーバード大から修士号取得。99年に霞ヶ関を飛び出し、東京大学講師に。東京大学助教授を経て現職。学術博士。プロボクサーライセンスをもつ2女1男の父。著書に『挑戦!20代起業の必勝ルール 』(河出書房新社)など

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