日経平均終値1万4721円、市場落ち着く ウクライナ問題の解決期待高まる

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3月4日、ウクライナ情勢は依然緊迫しているが、マーケットはいったん落ち着きを取り戻している。写真は東京都内で2月撮影(2014年 ロイター/Yuya Shino)

[東京 4日 ロイター] -ウクライナ情勢は依然緊迫しているが、マーケットはいったん落ち着きを取り戻している。市場では、東西陣営ともにデメリットが大きい軍事衝突という最悪のシナリオは避けられ、解決に向かうとの期待が大きい。地政学的リスクを警戒した売りは一巡し、日本株は買い戻しで反発した。

ただ、中間選挙を控えた米国からは政治的妥協を引き出しにくく、問題は長期化するとの見方もある。

<テールリスク織り込み>

米国とロシアが対立姿勢を強めているウクライナ情勢は引き続き予断を許さない状況だが、マーケットは徐々に落ち着きを見せ始めている。「安全資産」として買われていたスイスフランは前週末に付けた対ドルでの約2年半ぶり高値から反落。ドル/円はドルと円、ともに逃避資金が向かっているために動きは鈍いが、日経平均<.N225>も5日ぶりに反発するなかで、101円台前半から同後半まで戻した。

ウクライナ国債のCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)は5年物で再び1000ポイント台に乗せているものの、直近のピークである2月19日(1318ポイント)より低い。債務不履行(デフォルト懸念)が強まったリーマン・ショック時の3200ポイント(08年10月、09年4月)と比べて、依然として大きく下回る水準だ。デフォルト懸念が高まらなければ、金融システム危機への懸念も小さくなる。

「恐怖指数」とも呼ばれるシカゴ・オプション取引所のボラティリティー・インデックス(VIX指数)は前日16.78まで上昇押し、2月6日以来約1カ月ぶりの水準に上昇したが、2月3日付けた直近のピーク(21.48)を依然下回っている。前日は大きく下落していた米株先物もプラス圏で推移。不安定な上海総合指数<.SSEC>などを除けば、マーケットは「小康状態」を取り戻している。

「ウクライナ問題はテールリスクとして、マーケットはいったん織り込んだようだ。軍事衝突などが起きなければ、日本株は業績改善期待などを背景に、今年2月以降の下値切り上げの上昇トレンドに戻るとみている」と野村証券・投資情報部エクイティ・マーケット・ストラテジストの村山誠氏は話す。

複数のロシア通信社が、大統領府報道官の発言として報じたところによると、ロシアのプーチン大統領は今週、軍事演習中の部隊に基地への帰還を指示。マーケットはこのニュースを好感し、日本時間4日夕方、日経平均先物やドル/円は急上昇している。

<見透かされるロシアの経済事情>

マーケットが「軍事衝突」までに至らないと踏んでいるのは、ロシアの経済事情を見透かしていることが1つの要因だ。

ロシアの2013年の国内総生産(GDP)成長率は1.3%と前年の3.4%から大きく鈍化した。投資や消費が伸びないなか、政府の成長率見通しは何度も下方修正された。民間予想では今年も2.0%程度と低成長が続く見通しだ。こうしたなかで、欧米との対立を深め、EUやウクライナとの関係を断ち切り、天然ガスの輸出を止めることは考えにくい。

地政学的リスクが高まる中、前日の海外市場で、もっとも大きく売られたのはロシアの金融資産だった。中銀による利上げもあったが、通貨安には効かず、投資家はむしろ同国の経済を圧迫すると懸念、株式、債券、ルーブルがそろって売り込まれるトリプル安となった。マーケットは今回の問題でロシア経済が一番、悪影響を受けるとみているわけだ。

「これ以上、欧米側と対立を深めるとロシア自体がダメージを受ける。ロシアとしても適当なところで落としどころを探るのではないか」とりそな銀行・総合資金部チーフストラテジストの高梨彰氏はみる。

逆にEUもエネルギー確保のために、強い制裁措置を取ることはないだろうとみられている。地政学的リスクの上昇を背景としたコモディティ価格の上昇は、資源輸出国ロシア経済にとってプラスだが、資源自体が輸出できなくなってしまえば元も子もない。

<心配は米国の強硬姿勢>

心配の種は米国だ。ロシアがウクライナに軍事介入したことを受け、米政府はロシアに対する制裁を検討していることを明らかにした。オバマ米大統領は3日、ウクライナ問題をめぐり、ロシアの「一段の孤立化」に向け米国や同盟国がとり得る手段について国家安全保障担当の高官らと2時間超にわたり協議したという。

11月に中間選挙を控える米国では、政治的に弱腰をみせるわけにはいかない。ロシアとの対立姿勢が続けば、政治的な不透明感は払しょくされず、マーケットはリスクオンに向かいにくくなる。2月の米ISM製造業景気指数は寒波の影響がなくなり、生産が回復すれば、米経済も成長スピードを再加速させるとの期待を抱かせたが、それを市場に確信させるデータがそろうのは、しばらく先だ。

SMBC日興証券シニアマーケットエコノミストの嶋津洋樹氏は「クリミア自治共和国が独立すれば事態は収束するだろうが、ウクライナ東部を分割するということにまで発展すれば内戦になる可能性もある。米国は中間選挙で民主党が負け、オバマ米大統領がレームダック化すれば、米国の抑止力は低下し、東南アジアや中東で地政学的リスクが高まりやすくなる」と指摘。楽観にはまだ早いとの見方を示している。

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