僕が"3.11後の物語"を作ったワケ 『家路』久保田直監督が切り取る"フクシマ"の今

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――松山ケンイチさんが稲作を行うシーンは思わず見入ってしまいました。松山さんが行う稲作の所作ひとつとっても、稲に対する愛情がこもっていて、その土地に根付いている感じがしました。やはりそこはこだわった部分ですか?

そうですね。人間があそこで生きられない一方で、作物も含めた自然は生きている。そのことはきちんと見せたいと思っていました。そういう意味では、種もみから田植えをする過程を、ある種の縦軸としてきちんと見せたいと思っていました。そのことを俳優陣は全員きちんとわかっていたので、僕が何を言う必要もなく、スッと入れたと思います。もちろん地元の農業指導の方の思いが伝わったから、余計にそうなったともいえます。

(c)2014『家路』製作委員会

手植えで水田をつくるということ

――稲作のシーンは、機械を使わずに手植えでやられたとおっしゃっていて。それゆえに、稲作に対する愛情をより深く感じました。

やはり魂の部分のようなものが、きちんとしみ出てくるような作品にできればいいなと思っていますから。そういう意味で言えば、やはり機械でバッとやってしまうのではなく、手植えでやるということは時間もかかりますし、いろんな人にも協力してもらわなきゃできないわけです。それでも「手植えでやろう」と言ってもらえたときはグッときました。見事に皆さんがそれをやってくれたので、ものすごくありがたかったですね。

――準備も大変だったのではないかと思うのですが。

とても大変でした。まずは田植えができるような田んぼにしなければなりませんから。撮影した田んぼは、みんながほったらかしにしていた場所だったので、時間がかかりました。それから種もみも含めて、稲作のプロセスをきちんと撮りたいというのがありましたので、単にそこに行けば撮影できるというわけではなく、いろいろな段階の稲を作ってもらわなきゃいけない。田んぼの水入れをするシーンも、満面にするまでは、丸1日どころではなくもっとかかってしまう。だからスケジュールをどう組むかという部分は、助監督がほんとに大変だったと思います。

――今回は、居住制限区域に指定されている富岡町で撮影が行われたそうですが。スタッフも含めて、撮影に行くのも大変だったのではないかと思うのですが。

富岡町に入るには時間制限がいまだにあるので、入れる時間帯に撮影をしました。まさか撮影許可が下りるとは思わなかったのですが、奇跡的に許可が下りたのです。やはりこの場所に立つと、いろんな思いが胸にきましたね。ですから、ここにさえ入ってしまえば、撮影自体は全然大変じゃありませんでした。俳優陣も若いスタッフも余計なことを考える暇も余裕もなかったですから。ただ、時間制限があると、いろんな意味で息苦しくなってしまうので、そういう意味では時間との戦い、ということはありましたが、それでもやっぱり納得がいくまでちゃんとやろうとは思っていました。みんなよくやってくれたなと思います。

(撮影:尾形 文繁)

壬生 智裕 映画ライター

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みぶ ともひろ / Tomohiro Mibu

福岡県生まれ、東京育ちの映画ライター。映像制作会社で映画、Vシネマ、CMなどの撮影現場に従事したのち、フリーランスの映画ライターに転向。近年は年間400本以上のイベント、インタビュー取材などに駆け回る毎日で、とくに国内映画祭、映画館などがライフワーク。ライターのほかに編集者としても活動しており、映画祭パンフレット、3D撮影現場のヒアリング本、フィルムアーカイブなどの書籍も手がける。

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