「ボーナスの差」が組織崩壊を招いた会社の末路 安易な賃金制度導入で社員の不満が爆発した

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ところが、結果は村田社長の期待を大きく裏切るものでした。

多くの社員から抑えきれないくらいの不満が噴出したのです。理由を直接社員に聞いてみると、次のような声があがってきました。

「甘い課長の部署の人はみんな賞与が高くなっている」

「長く勤めただけで役職についている人に賞与を決められたくない」

「自分の仕事を見てもいない人が賞与を決めている」

つまり、賞与を決定するための評価をする上司に対する不満だったのです。この賞与に対する不満を理由に優秀な営業マンから辞表が提出され、1人は止めきれずに退職してしまいました。

重要なのは金額の決め方より評価結果の根拠

ここまでお伝えした話は、中小企業を専門に約19年間人事評価制度のコンサルティングを展開している私が駆け出しのころにクライアント先で起こった実話です。

では、こうした事態に陥らないようにどのような考え方でどこから手をつければよいのでしょうか。

それは、先ほどの山田さんの言葉に答えが含まれています。山田さんは、鈴木さんとの賞与額の差100円について、社長に質問してきました。山田さんは賞与額の差、「100円」に不満や疑問があったのでしょうか。

そうではないことは容易に理解できます。金額面で100円程度の差があったとしても、それが原因でBさんはほしいものが買えて、Aさんは買えないなどと、生活面に差を生むことはないからです。

山田さん自身も、「……低かったのですが、なぜでしょうか」と社長に対して質問しています。Aさんが知りたかったのは、「なぜ100円の差がついたのか」、その根拠です。

これに対して実施した村田社長の対策は、賞与支給の基準を示し、「賞与の支給ルールを決めた。ルールのうえで100円の差をつけることになっているから差をつけた」と山田さんに伝えただけというものだったのです。

これだけでは、当然山田さんも納得することはないでしょう。もうおわかりでしょう。まず手をつけるべきことは、山田さんに100円の差の根拠を「評価結果」ではっきり示し、その理由を伝えて納得してもらうことです。

つまり、「賞与支給基準」を明確にするのではなく、「評価制度」をきちんと構築し、社員が納得する評価の仕組みを確立するほうが先だったのです。この順番を間違ったために、村田社長の行動は社員のモチベーションを下げてしまうということにつながってしまいました。

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