スマホに隠れた「国勢調査員」という影の役割 何かしらもっともらしい犯罪の証拠は探れる

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リンジーとぼくがハイキングにでかけて迷子になり、リンジー──この件については一切話していなかった──が唐突にこう言ったことがある。「フォートミードにSMS送って見つけてもらったら?」そう言われて、ぼくは何とか笑おうとした。彼女はその冗談を続けて、ぼくは何とかそれをおもしろがろうとしたけれど、無理だった。彼女はぼくを真似てみせた。「もしもし、道を教えてもらえないかなあ?」

後にぼくはハワイの真珠湾近くに住むことになる。そこはアメリカが攻撃され、最後の正義の戦争と呼べそうなものにひきずりこまれた場所だ。ここ日本で、ぼくはむしろ広島や長崎に近かった。その戦争が恥ずべき形で終わった場所だ。リンジーとぼくは、ずっとこの2都市を訪問したいと思っていたけれど、予定を入れるたびに、何かがあってキャンセルせざるを得なかった。初めて休みが取れたときには、本州を下って広島に行く気満々だったのに、急に仕事で招集がかかり、正反対の方向に向かわされた──凍てつく北部の三沢空軍基地だ。次に予定をたてたときにはリンジーが病気になり、そしてぼくも病気になった。

最後に長崎に行こうとした前の晩に、リンジーとぼくは初の巨大な地震で目が覚め、布団からとびおきて、階段を7階分駆け下り、その晩はずっとご近所たちとともに街頭で、パジャマ姿で震えながら過ごしたのだった。

本当に後悔しているのだけれど、結局ぼくたちは行けなかった。これらの場所は聖地で、その記念碑は焼き尽くされた2万人と、放射線で汚染された無数の人々を悼むとともに、技術の道徳不在について語ってくれる。

核兵器とサイバー監視の共通性

ぼくはしばしば「原子の瞬間」と呼ばれるものを考える──物理学ではこれは、原子核がまわりを旋回する陽子や中性子を原子の中に取り込む瞬間を示すものだけれど、一般にこれは核時代の到来を意味するものとされる。同位体がエネルギー生産、農業、水の殺菌、致死性の病の治療を可能にしてくれると同時に、原爆をつくり出した瞬間だ。

技術にはヒポクラテスの誓いが存在しない。少なくとも産業革命以来、学術界、産業界、軍、政府における技術屋たちが下してきた実に多くの決断は、「できるかどうか」に基づいたもので「やるべきか」には基づいていなかった。そして技術発明を動かした意図は、その応用や利用を制約することはめったに、いやまったくない。

もちろん核兵器とサイバー監視を、人間へのコストという観点で比べるつもりはない。でも拡散と軍縮という概念に関するかぎり、ここには共通性がある。

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