赤西仁「年収3億円報道」の裏にある厳しい現実 B級映画にニコラス・ケイジが出まくる理由

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オーディションもない、当面の仕事も決まっていないという間は、エキストラをやって日銭を稼ぐ手もある。しかし、エキストラの仕事だって、そう都合よくあるわけではない。それに、映画俳優組合の枠で入れば報酬が多少は上がるとはいえ、エキストラの時給は基本的に最低賃金だ。

東スポwebの記事にあったように、「エキストラだけで人並みの報酬を得ている人」もいることはいるのかもしれないが、多数派とは思えない。

いざ、役が取れ、一見高額なギャラをもらえたとしても、先も述べたように、彼らは自営業なので、そこから経費、すなわちエージェントやマネジャーのコミッションや、弁護士代、そしてもちろん、税金を払うことになる。

広報を雇っていれば彼らへの支払いもあり、ちょっとビッグになって個人秘書やボディーガードをつけるようになったら、その給料も払わなければならない。そうした収支のバランスを見ないから、ジョニー・デップやニコラス・ケイジのような大物スターが借金まみれになったりするのである。

ニコラス・ケイジ(写真:Robert Marquardt/Getty Images)

そんなケイジは、この9年ほど、とにかくお金を稼ぐため、ほとんどのアメリカ人が存在すら知らないB級映画にひたすら出続けている。昔のように、1本で10億円以上稼げ、しかも世界中の人が見に来てくれる映画を選んでいられる立場ではなくなったのだ。だが、それは恥ずかしいことではない。

ベテラン俳優でさえ仕事は選べない

そもそも、選り好みは、ハリウッドにおいて特権中の特権なのだ。「オファーはうるさいくらい来るけれども、どれもいまいちな感じだから、今はのんびりするか」などと言っていられるのは、レオナルド・ディカプリオやトム・ハンクスなど、ほんのひとにぎり。

それ以外は、かなり名の知れた、尊敬されるベテランであっても、住宅ローンや子育てがあるから、与えられた中から演じられる役を選んでいる。

アカデミー賞主演女優賞を受賞した73歳のダイアン・キートンでさえも、昨年、筆者とのインタビューで、「作品選び? そんなに複雑じゃないわよ。私のところには山のように脚本が送られてきたりはしないんだから。ちょっとしか来ないの。よっぽどひどいならともかく、可能性があるなと思ったら、受けるわ。仕事をしないわけにはいかないんだもの」と正直に語ってくれた。

ハリウッド映画は、夢を与えてくれるもの。だが、それを作るのは人であり、その人にとっては、仕事なのだ。楽してがっぽり稼げる仕事など世の中にないのは、われわれ庶民がよく知っていること。それは、1度は楽してがっぽり稼いだことのあるハリウッドの住人にだってずっとついて回る、非情な現実なのである。

猿渡 由紀 L.A.在住映画ジャーナリスト

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さるわたり ゆき / Yuki Saruwatari

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒業。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場リポート記事、ハリウッド事情のコラムを、『シュプール』『ハーパース バザー日本版』『バイラ』『週刊SPA!』『Movie ぴあ』『キネマ旬報』のほか、雑誌や新聞、Yahoo、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。

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