貸し渋り法案の光と影、金融行政を180度転換

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民間銀行の公的金融化

だが、今回の新法の意味は非常に重い。亀井金融相は「小泉・竹中時代の金融行政は誤り」と繰り返し、検査マニュアルや監督指針の改訂を重視している。法案を取りまとめた大塚耕平副大臣は「虚偽の報告・開示には罰則規定があり、金融機関にとっては大変に厳しい内容」と語る。

要は、金融行政の180度の大転換である。金融庁設置法第3条には「金融機能の安定化」とともに、「預金者(保険契約者、投資者)等の保護」と「金融の円滑化」が金融庁の任務とある。経済が安定して、銀行の財務のみに問題がある時代には、「預金者保護」と「金融の円滑化」は矛盾しない。銀行の財務を立て直せば、預金者保護も図れるし、資金供給の義務も果たせるからだ。

不良債権問題に苦しんだ後、竹中平蔵元金融相時代以降は金融機関の財務健全化、すなわち債権の浄化が検査の目的だった。検査官の名前が、若い銀行員の口の端に上るほど恐れられたのである。

しかし昨年からの世界的なバブル崩壊で総需要が劇的に落ち込み、中小企業の売り上げに回復のメドが立たず、返済原資がなくなった。そうすると銀行の財務だけがきれいならよいのか、という雰囲気にガラリと変わってきた。

新法の下、検査官も銀行員も手のひらを返したような対応を迫られる。もはや民間銀行の公的金融化である。銀行の財務が傷めば、公的資金を使えばよいという発想だ。引当金を積まない隠れ不良債権も増える。銀行がどこまで企業と痛みを共有するのか。市場関係者は情報開示を促し、注視していくことになる。

(大崎明子 撮影:尾形文繁 =週刊東洋経済)

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