英国人に「あなたの経済的豊かさ」を聞いてみた 英国階級調査からわかった人々の複雑な心境

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ジェイン、ジェレミー、フィオーナの経済的状況には顕著な違いがある。だが、3人とも自分は真ん中あたりと回答している。

元ショップ販売員のジェインの収入は公的年金のみで、所得はかなり低い。資産はなくグループホームで暮らしているが、ささやかな貯蓄がある。コンピューターを持たず、旅行もできないほど経済的に困窮しているにもかかわらず、自分では所得ランクは中程度だと考えている。

ジェインの対極にいるのがフィオーナである。職業はIT企業管理職で、所得は上位10%に入る。評価額の高い住宅を所有し、貯蓄も多い。

にもかかわらず、彼女もまた中程度だと言い、物欲はなく倹約の習慣を強調した。相当な経済資本を所有しているが、それを誇示するどころか恥ずかしいと感じていることがうかがえる。

ジェレミーは、ジェインとフィオーナの中間にいる。所得は高いが、住宅の評価額はフィオーナより低く、貯蓄はない。彼もまた自分を「5」に位置づけている。

これは何を意味しているのだろうか。3人の話を額面どおりに受け取らず、その深層を探ってみると、別の事実が浮かび上がってくる。自分の経済的ランクを中程度と答える人は多いが、実際に裕福ではない人々は、その事実がこれまでの人生と現在の暮らしぶりを制限してきたことをよく自覚している。

裕福な人とそうでない人の意識の違い

例えば、ヨークシャーに住む貧しい年金生活者のアリソンは、インタビューの間にたびたび金銭のことを口にした。過去の彼女の仕事は賃金が高かったかどうかとか、お金が足りなくて娘を大学にやれなかった、などといった話である。

一方、裕福な人たちはまったく違っている。ロンドンに住む経営コンサルタントのルイーズは経済分布の上位にいる。所得は約3038万円で、住宅の評価額は2億7000万円近く、そのほかに1350万円を超える資産がある。

最初に経済ランクの自己評価をたずねると、じつに素っ気なく、「さあねえ。わからないわ。お金なんて重要だと思わないし」と答えた。「私はお金のために何かしたことはありません。何かするのは、やりたいから。所得のランクって言われたって、わからないわ」。

彼女は自分の人生で金銭は重要ではないと言い、金銭は好きな仕事を熱心にやった結果、それも計画的にではなく偶然、手に入っただけだと強調した。つまり、裕福な人ほど金銭を軽視する素振りを見せているのがわかる。

次ページ中程度だと自己評価しても理由は異なる
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