第6回 海外新年事情

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12月になると冷え込みが厳しくなり、あらゆるものの締切が迫る。
同時に忘年会で1年を振り返らないといけないという、師も走るという忙しさに追い込まれるのが日本の年末。
 そして紅白、除夜の鐘、ゆく年くる年と続き、明けて1月1日の朝は清涼な空気に包まれながら新しい年を迎えるのが日本の新年。
 海外ではそんなはずもなく、そもそも新年の定義が1月1日ではないケースも多発する。
 そんな日常で耳目にすることをいくつかお届けしたい。

キリスト教国のオーストラリアでは新年よりも、クリスマスが年間イベント最大の山場となる。
 元来が宗教行事のせいか、あらゆる活動が「世のため、人のため」というベクトルで動き、この時期山ほど買う品々はすべてプレゼント。
 10ドルの本を買って20ドルを募金箱へ入れていったりと、魂の霊的レベルが通常の3倍くらい高くなる。
 ところが12月25日が明けると26日にはボクシングデー。
 これはプレゼントの箱、ボックスを開けるお楽しみの日で、すべてが「自分のため」にベクトルが急転換。日本の初売りのように、血相を変えてバーゲン品を買いあさる姿がそこここに見られる日なのだ。

その熱気も過ぎた頃に訪れる年越しの目玉は、そう、シドニー・ハーバー・ブリッジで行われるカウントダウン花火大会。
 一箇所だけではなくシドニー湾全体を使って数kmに渡り花火の演出が行われるので、肉眼で全体を見るにはヘリにでも乗らないといけない。水平方向に巨大な仕掛けである。
 Happy New Yearを連呼して、明けた翌1月1日は皆疲れきってビーチで寝ていたりと、ここでは盛夏の新年が楽しまれる。

ほかの海外の国のお正月、例えばタイは、仏暦の国なので4月に宗教的な新年を迎える。
 暑い国ならではの水かけ祭りは、乾季が明けて恵みの雨が降るように、という農業国らしいお正月。

シンガポールは1月1日より中華正月がメインだけど、マレー系のイスラム、インド系のヒンドゥーも存在感があり、数カ月ごとに「Happy New Year」だ。忙しいことこの上ない。

ドバイの超絶なる花火

ドバイで宗教的な厳かさが伴うのは、当然イスラム暦に則った新年。でもイベントとしての新年は、やはり1月1日。
 ここ数年は828mのブルジュ・ハーリファで垂直方向に巨大な、カウントダウン花火が恒例行事だ。
 隅田川の花火よりさらに高いビルから水平発射される花火は、肉眼で見てもCGにしか見えない異次元の光景だった。

お年玉という習慣がない上に、初物にこだわらないので、福袋とか初売りのマグロとか、正月にちなんだ買い物がなく、ある意味季節感に乏しいのが海外小売業のお正月。
 しかしHappyという言葉が挨拶に使われる時期というのは、皆が幸せな時期に違いない。
 幸せな人たちにお薦めの本を提供する喜びにおいて、本屋に国境はない。

山田 拓也 紀伊國屋書店シドニー店 支配人

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やまだ たくや / Yamada Takuya

紀伊國屋書店入社以来、シンガポール、ドバイ、シドニーで、英語、中国語、仏語、独語そしてアラビア語書籍の販売に携わり、インド、ウズベキスタン、エジプト、エチオピア、ケニア、シンガポール、ジンバブエ、スリランカ、タイ、中国、チュニジア、ドイツ、トルコ、ネパール、パキスタン、バングラディシュ、フィリピン、香港、マレーシア、ミャンマー、モロッコ、オーストラリア人等と働く。多様な価値観との接触が趣味の書店員

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