第5回 海外クリスマス事情

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以前勤務していたシンガポールは、中華正月が1年で唯一店の閉館日で、クリスマスは純然たる商業活動の日だ。
 イスラム暦で動くドバイ店にもいたが、クリスマスはあくまでも傍系のイベント。そもそも太陰暦なので祝日すら前日の夜まで決まらない。
 そしてご当地シドニーは、日曜日は買い物などせずにお祈りして家族と過ごす日。クリスマス当日に仕事なんていうのは論外で、営業禁止!というキリスト教国だ。そんな日常で耳目にすることをいくつかお届けしたい。

 クリスマスの準備、これはいつ頃からなの?と周囲に尋ねてみると「父の日が終わったらかなぁ」という答え。当地の父の日は9月の第1週なので、3カ月以上前に「クリスマス」という単語が脳内起動するらしい。
 具体的に「事前準備」というと当然プレゼントの準備になるらしく、誰に何を買うか、というコメントが常に飛び交う。

10月に「iPad Miniの前評判はオーストラリアではどう?」とかいう質問をすると、「プレゼントならフルサイズの方がいいな」と返事が返ってきた。「君に贈呈するつもりは毛頭無いんだが……」と思いつつも、そのクリスマス・マインドに脱帽してしまった。

市バスはサンタ(夏服)が運転

当然のことながら社内行事は忘年会ではなく、クリスマス・パーティ。会費なんていう野暮な物は存在せず、費用はすべて会社持ちだ。なぜなら会社からスタッフへのクリスマス・プレゼントだから。
 当地では「いい子にしていないとサンタさんは来ないよ」という躾はどうやらないらしく、いい子ではない類のスタッフも朗らかに参加する。

小売業なのでプレゼントというところに焦点に当て、我々は様々な仕込れを行っていく。
 自前のクリスマス・カタログを手始めに、店内の飾りつけはもちろんのこと、各種の飾りをスタッフも笑顔で着用する。
 多少浅薄な商業的香りが伴う非キリスト教国のクリスマスとは異なり、友人、知人、同僚などに本を贈るというのは、当地の確立された贈り物カテゴリーらしい。12月に入ると真剣に本を選ぶ人が増えてくる。

当地の12月は夏。日本と季節が逆だ。夏休みという素敵な日々と共にクリスマスがやってくるというのは、日本でいう盆と正月が一度に来るようなもの。小売でも業種によっては、12月の売上が通常の2倍から3倍にもなるらしい。これでは売るのも買うのも忙しいはずである。

午後8時過ぎのツリーの夜景

いつもは海外通販で安く本を取り寄せたり、電子書籍でお手軽に読書をしている人たちも、クリスマスにはリアル書店へやってくる。なぜなら大切な人への贈り物は、自分の目で確かめたいからだ。
 電子書籍はデータに過ぎないので、そもそも贈り物になり得ない。そんな人たちをお迎えするために、数カ月かけて本屋はクリスマスの準備をすすめている。
 自分が好きな本を大切な人のプレゼントに勧めたいという気持ちにおいて、本屋に国境はない。

山田 拓也 紀伊國屋書店シドニー店 支配人

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やまだ たくや / Yamada Takuya

紀伊國屋書店入社以来、シンガポール、ドバイ、シドニーで、英語、中国語、仏語、独語そしてアラビア語書籍の販売に携わり、インド、ウズベキスタン、エジプト、エチオピア、ケニア、シンガポール、ジンバブエ、スリランカ、タイ、中国、チュニジア、ドイツ、トルコ、ネパール、パキスタン、バングラディシュ、フィリピン、香港、マレーシア、ミャンマー、モロッコ、オーストラリア人等と働く。多様な価値観との接触が趣味の書店員

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