第2回 海外仕入事情

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出版元の担当者が伝票に記入している

日本の本屋さんは当然日本国内から本を仕入れる。卸問屋に注文を出せばその商品は届けられる。
 しかしそうは「問屋が卸してくれない」のが、海外の本屋さん。
地元仕入書籍ならまだしも、「いろいろな国の本が手に入ります」というのが売りの総合書店は、本を棚に並べるまでに一苦労だ。そんな日常で耳目にすることをいくつかお届けしたい。

英米大手の出版社はまだ簡単で、発注システムに発注数を入力すればOK。そうでないところは注文書を1点ずつメールする。
便利になったとはいえ、時差も考えないと時間を無駄にしてしまうし、祝日なども国ごとに要チェックだ。
 フランスは夏のバカンスでひと月音沙汰無しなんてことがあったし、日本から返事が来ない!と思ったらお盆休みだった、なんていうことも。香港や上海は英語で書いているのに、中国語で返信メールが来たりするので油断ならない。

やっと商品が届いた!

注文の次は輸入業務。海外輸入になるので各種通関書類はもちろん、梱包なども要注意事項である。
 到着までのスケジュールは各種要因に左右され、北米東海岸のハリケーンで遅れ、英国南部の吹雪で滞り、台湾の台風でズレる。
 アイスランドの火山噴火の際は、世界大戦でも封鎖されなかった欧州空路が全封鎖で大混乱だった……。
 幸いオーストラリア通関業務はスムーズだけれど、国によってはさらに検閲というステップがあるところもある。
 「海外からご禁制の品を入れてない?」という質問には、いつでも「ノープロブレム」で。かくして世界の時計とカレンダーと天気を毎週チェック。自ずと視野は広くなる。

思い出深いのは、ドバイでのアラビア語書籍の仕入れ。エジプトやモロッコといった国の書店が、年に数回近隣地域のブックフェアに出展する。
 普段仕入れる機会がない本を一気に揃える千載一遇のチャンスと、現金買い付けに出動だ。やりあう相手はアラビアン商人。極東人の相手など簡単にはしてくれない。
 なので、
 「でかい店を持ってる。今回これだけの金額を買うつもりだ」
と注意をひき、目をつけた書籍に
 「いくらだ?」
と交渉開始。
 当然顔と身なりと懐具合で判断されるので、
 「いくらなら買う?」
と返ってくる。
 「この本は紙の質がよくないな。この程度だろう」
 「それじゃ儲けが出ない」
 「現金一括だ。いくらにする?」
と会話は続いていく。本の仕入とは思えない。

苦労して仕入れた本だけに愛着もひとしおだ。
 本を好きな人に買ってほしい思う気持ちにおいて、本屋に国境はない。

山田 拓也 紀伊國屋書店シドニー店 支配人

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やまだ たくや / Yamada Takuya

紀伊國屋書店入社以来、シンガポール、ドバイ、シドニーで、英語、中国語、仏語、独語そしてアラビア語書籍の販売に携わり、インド、ウズベキスタン、エジプト、エチオピア、ケニア、シンガポール、ジンバブエ、スリランカ、タイ、中国、チュニジア、ドイツ、トルコ、ネパール、パキスタン、バングラディシュ、フィリピン、香港、マレーシア、ミャンマー、モロッコ、オーストラリア人等と働く。多様な価値観との接触が趣味の書店員

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