IPOブームの影で人気化する、ある人材 勤務先の会社が上場。面倒で不運?それとも幸運?

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典型的なのが経理部門と財務部門の分離。日々の取引記録を会計帳簿に記帳する業務と、銀行口座などの資金を動かす業務を1人の担当者が行っている会社が、非上場会社にはたくさんあります。ただ、この2つの業務を1人の担当者が行うと、不正が行われる可能性があり、また、その不正を発見できない可能性が高まります。

そこで経理部門と財務部門を分け、担当者を最低2人おいてお互いが牽制し合う状況にするのです。このように資材などを購入する購買部門と社内用の備品などを購入する総務部門など、相互の牽制が必要と思われる部署で「プラス1人の中途採用」が続々と行われました。ついには管理部門が大幅に膨れて、人件費が大幅にアップ。そのコスト負担も含めて現場には過酷な売り上げと利益の目標が課せられたのです。人事部には

「いい加減に中途採用は止めてくれ。その分の負担が大変なのはわかっているのか?」

とのクレームが、限りなく舞い込むようになったとのこと。経営陣の指示で動いていたFさんは現場との間に挟まれて、大いに苦悩したようです。

この騒動のメリットは……

このように上場の準備が始まると、職場には負担ばかりがかかるように思えます。ただ、上場後には会社の知名度が上がり、優秀な学生が採用できるようになった。あるいは会社の信頼度が上がり、大企業との仕事がやりやすくなった……など、享受したメリットはいくつもあったようです。

古い考えのようですが、「上場企業に勤務していると家族や周囲が安心する」という意見も多数聞きました。それだけ、上場している企業に勤務することに、ステータスを感じる人がいるのでしょう。さて、もしあなたの会社が上場を目指す状態になったら? その変化の目撃者となることは、大いなる“キャリア”となる可能性が大。特に管理部門で

「上場準備の時期に、管理部門で社内規定の整備をしました」

などと語れるキャリアが積めると、人材市場における価値が高まるのは間違いありません。ここ最近の上場企業の減少で、上場準備にかかわった管理部門の人材が劇的に少ないからです。一方で上場する企業が増えていくとすれば、需要と供給のバランスで売り手市場になるのは明らか。

《経営企画スタッフ: 上場準備にかかわった実務経験者を募集します》

こうした求人が増えていますが、その条件に合う人材は今、絶望的に足りていないのが実情。多少は居心地が悪いと感じるかもしれませんが、会社が上場に向けて邁進する状態になることは、あなたにとって幸運だと思っていいのではないでしょうか?

高城 幸司 株式会社セレブレイン社長

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たかぎ こうじ / Kouji Takagi

1964年10月21日、東京都生まれ。1986年同志社大学文学部卒業後、リクルートに入社。6期トップセールスに輝き、社内で創業以来歴史に残る「伝説のトップセールスマン」と呼ばれる。また、当時の活躍を書いたビジネス書は10万部を超えるベストセラーとなった。1996年には日本初の独立/起業の情報誌『アントレ』を立ち上げ、事業部長、編集長を経験。その後、株式会社セレブレイン社長に就任。その他、講演活動やラジオパーソナリティとして多くのタレント・経営者との接点を広げている。著書に『トップ営業のフレームワーク 売るための行動パターンと仕組み化・習慣化』(東洋経済新報社刊)など。

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