「走りたい」をかなえる競技用義足に普及の課題 パラアスリート山本篤選手が教えるクリニック

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「国民の健康増進といっても、普通の義足では走れない。でも走ってほしいんです。そうすれば障がい者も健康になって医療費も減るでしょう」といい、何より子どもたちに心を配る。「義足の子どもは、体育をみんなと一緒にできない。(競技用の義足を)支給してもらわないと一緒にできないんです」と訴える。

例えばパラリンピックで山本選手を見て、スポーツを本格的にやりたい、競技者になりたい、という人もいるだろう。ただ「走りたい」という夢を持っている人もいる。こうした義足を普通に購入できれば、それがかなう可能性が高まる。

「障がいがあるからこそ、スポーツをやらなければならない。将来のために今から体を鍛えないといけない」とポポフ氏。障がい者が運動をする機会もこの義足なら増える。「マラソン大会に出られるかもしれない」と山本選手も言う。

オットーボック社が主催するランニングクリニックの参加者たち(筆者撮影)

東京オリンピック・パラリンピックの「レガシー(遺産)」がさかんに言われる。これまでのコラムでも何度か書いてきたが、レガシーは何百億円もかけた「建物」ではない。建物は「負のレガシー」になる公算も大きい。

「国民の健康増進」は健常者だけのための言葉ではない。パラリンピックを機に「走ろう」「走りたい」と思う人たちが増えるかもしれない。「国民の健康増進」というなら、恒久的な支援を考えるべきだろう。

オリ・パラのレガシーとは何か?

開催まで残り9カ月で東京オリンピックのマラソン・競歩が札幌開催に決まった。東京都ではなく財源を組織委員会と国際オリンピック委員会(IOC)が負担するという。新たに生じる大会経費で、多方面から費用負担の懸念が出ている。

組織委員会に残っているお金があるのであれば、パラアスリートをはじめ、障がい者支援の財源を拡充することができれば、どこからも批判が出なかったはずだろう。

子どもから高齢者まで「走りたい」の希望がかない、笑顔になる人を増やすのは、何よりの「レガシー」になる。

赤坂 厚 スポーツライター

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あかさか あつし / Atsushi Akasaka

1982年日刊スポーツ新聞社に入社し、同年からゴルフを担当。AON全盛期、岡本綾子のアメリカ女子ツアーなどを取材。カルガリー冬季五輪、プロ野球巨人、バルセロナ五輪、大相撲などを担当後、社会部でオウム事件などを取材。文化社会部、スポーツ部、東北支社でデスク、2012年に同新聞社を退社。著書に『ゴルフが消える日 至高のスポーツは「贅沢」「接待」から脱却できるか』(中央公論新社)。

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